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やくみつる☆シネマ小言主義~『火の鳥 エデンの花』/11月3日(祝・金)全国ロードショー

監督/西見祥示郎 原作/手塚治虫 脚本/真野勝成、木ノ花咲 声の出演/宮沢りえ、窪塚洋介、吉田帆乃華、イッセー尾形 配給/ハピネットファントム・スタジオ


自分の職業は漫画家ではありますが、実のところアニメーションを中学生ごろから見ておりません。その後、人気のジブリ映画も見ていない。そもそも、手塚治虫先生がライフワークとして描かれた原作漫画『火の鳥』シリーズすら一冊も読んでいないという体たらくです。


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本作は、地球と宇宙の未来を描いた『火の鳥・望郷編』のアニメ映画化された作品。技術面はすごい進歩を遂げているのだろうと思いつつ、物語のみの感想を言いますと、「ベタ」です。


何しろ登場人物が少ない。十指に満たないほど、絞り込まれた人数しか出てこず、そのせいか話もシンプルに。『火の鳥』全編を通して手塚先生が描こうとしたテーマはおそらく壮大なものなのでしょうが、1編だけに絞るとなると、やっぱり子供向きになるのかなぁと。逆にシンプルがゆえに、時空を超えた「望郷の念」がストレートに伝わり、老若男女が共感する「長めの短編」になったという印象です。


ただ、作画はうれしかったですね。パンフを見ると、CGで作った背景に手描きのキャラクターを重ねていったそうですが、よく目にする美少女アニメ系やジブリ系のキャラクターのどちらでもない。「あの手塚先生の絵が動いている!」という感動があります。たった1人残った地球人の主人公ロミも、未知の惑星エデン星人たち、その子供コムも、1枚1枚セルに描いていた当時の懐かしいタッチ。これこそ、実話読者も年代的に刺さるんじゃないでしょうか。

イッセー尾形の怪演にも注目

そして声優。若い時から70代、そしてまた若返る主人公役の宮沢りえのうまさと、恋人役の窪塚洋介の棒読みっぷりが際立っていました。出色は「腹黒い宇宙商人」役のイッセー尾形。昭和40年代、『ひょっこりひょうたん島』の海賊トラヒゲ役や『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌を歌っていた熊倉一雄を思わせる怪演。よくぞ見つけたり。ところで、『火の鳥』と自分は、過去に意外な接点があったことを思い出しました。手塚先生率いるアニメ制作会社『虫プロ』が東京の高田馬場にあった当時、描き上がったセル画の束を撮影所まで車で運ぶバイトをしていたんです。その作品こそ、1980年公開、手塚先生自ら映像化した唯一の映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』。ある夜半、自分が虫プロで待機していましたら、そこにふらっと手塚先生が現れたのです。ベレー帽をかぶったあのお姿。たった一度だけでしたが、まさに僥倖。噂通り、本当に寝ないんだと思ったことを覚えています。なのに、封切られた映画を見なかった…自分です。
やくみつる 漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。