岸田文雄 (C)週刊実話Web 
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岸田首相が“脱・麻生”へ!? 就任2年…支持率過去最低で正念場

岸田文雄首相は年内の衆院解散を見送り、来年秋の自民党総裁選で再選を図る方向へ大きく軸足を移した。本格政権をつくるにはそれしかないと、今回の人事で思い知らされたからだ。だが、内閣支持率は過去最低となり、首相は大きな正念場を迎えようとしている。


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9月29日昼、永田町には緊迫した空気が流れていた。公明党の山口那津男代表が首相官邸に入ったからだ。


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岸田首相との定期会談のためだが、首相が臨時国会冒頭で衆院解散に踏み切るのではないかとの見方が強まりつつあり、解散の判断を伝える可能性があるとして緊張が高まったのだ。


会談を終えた山口氏は会話の詳細は明かさなかったが、記者に問われると「首相が決断すれば対応できるよう準備は進めたい」と述べたため、解散の臆測に拍車を掛けることになった。


実際は2人の間でどのようなやりとりが交わされたのか。政府関係者が話す。


「首相の話は大きく2点だった。衆参2補欠選挙への協力依頼と、臨時国会を10月20日に召集する方針についてだ」


10月22日投開票の衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補選に、自民党はいずれも新人候補を擁立したため、協力を求めるのは至極当然な話。臨時国会の召集時期を伝えるのも普通の成り行きだ。


だが、話には続きがある。


「首相は、補選応援のため長崎、徳島、高知に自ら出向くと説明した。臨時国会については、会期を12月中旬までにしたいとも話した。ここがポイントだ」(政府関係者)


衆院補選は告示されていても、解散が投開票前なら直ちに取りやめとなり、長崎4区は消滅して新3区に統合される。だが、首相自身が応援に入るということは、現行選挙区のまま必勝を期すという意味になる。つまり、山口氏に冒頭解散は考えていないと暗に伝えたというわけだ。


加えて、会期を12月中旬までとするのは、23年度補正予算の成立に万全を期すということ。すなわち、成立までは解散しない考えを示したことになる。


先の政府関係者が明かす。


「山口氏は相当喜んだのではないか。口では『準備を進める』と言いながら、公明党が年内解散を避けたがっていたのは周知の事実。今回の解散風は公明党に恩を売り、補選の応援をしっかりさせるために吹かせたのではないかと思われるのです」


実はちょうどこの時期、「自民党が9月中旬に行った衆院選情勢調査」の結果が永田町に出回っていた。自民党は、補正を掛けないもので同時点261の議席が「3減」、掛けたものでは最大「41減」だったが、公明党はいずれも10前後のマイナスとなっていた。

来年秋までの辛抱

日本維新の会と真っ向対決となる大阪・兵庫の計6選挙区と、新規に擁立する埼玉、東京、愛知などの4選挙区での苦戦に加え、集票力の陰りから比例代表での議席減が予想されていた。

10減なら衆院は22議席となり、国政への影響力は減少する。公明党としては、勝てる態勢にするために時間が欲しいのが本音なのだ。


「首相はそこを突いた。菅義偉前首相は21年春の衆参3選挙での全敗が退陣につながった。だから今回の補選で大敗だけは避けたい。そのためには公明党の応援が必要だ。負けても善戦なら大きな影響はない」


結果は、参院徳島・高知選挙区は完敗だったものの、衆院長崎4区は7000票もの差をつけて勝利した。接戦が伝えられ、やはり終盤で公明党が動いたという。岸田首相が衆参2補選に相応の覚悟で臨んだのは、年内の衆院解散を狙うのではなく、腰を据えて来年秋の自民党総裁選での再選を目指そうとしているからに他ならない。


首相がこうした判断を固めたのは9月の内閣改造・党役員人事のときだという。首相に近い岸田派(宏池会)幹部が話す。


「首相は自身が思い描く人事ができれば、秋解散も選択肢に入れていたが、そうならなかった。思い切った人事をするには、もはや総裁選に勝つしかないと思い定めたということだ」


この幹部によると、首相は今回の人事で反りが合わない茂木敏充党幹事長を小渕優子氏(現選対委員長)に交代させた上で、岸田派座長の林芳正前外相を政調会長に充て、同派で党三役の一角を占める人事を構想していた。さらには、参院で権勢を振るう安倍派の世耕弘成参院幹事長を入閣させ、やはり岸田派の松山政司参院政審会長を昇格させる腹積もりだった。


「ところが麻生太郎副総裁が、いまの岸田、麻生、茂木3氏による『三頭体制』を崩すべきでないと強く主張。林氏のポストのために萩生田光一政調会長を官房長官に転じさせる案も、萩生田氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を理由に麻生氏が難色を示し、断念せざるを得なかった。世耕氏についても官房長官以外の役職を拒んだため、こちらも実現できずに終わったのです」(治部記者)


首相が自前の人事に、そこまでこだわったのには理由がある。党内で岸田派の存在感を高めることで、政策決定への影響力を強める一方、総裁派閥でありながら低調な岸田派への入会者も増やすためだ。


首相は政策面で「安倍・菅政権を継承している」と公言しているが、実際は大企業優先の「異次元の金融緩和」で、生活者の所得格差を拡大させた「アベノミクス」から脱却しようとしているのは明白だ。


「アベノミクスの肝は、大企業が儲かり富裕層も豊かになれば、国民も潤うようになるという『トリクルダウン』理論だ。だが、そんなことは起きなかった。バイデン米大統領が9月に演説で『トリクルダウン理論は駄目だった』と訴えたが、首相は『俺と同じだ』と大いに共感していたといいます」(同)


だが、アベノミクスとの決別には、世耕氏が特に強く抵抗し、現行の金融政策の維持と積極財政を唱え続けている。こうした声を封じ、首相が目指す政策を進めるには、人事が肝要となるのは自明の理なのだ。

減税案を取り仕切る木原氏

だが、臥薪嘗胆の心持ちで来年の総裁選後の人事刷新を狙っている岸田首相の前には、暗雲も立ちこめている。朝日新聞と共同通信が10月中旬に行った世論調査で、内閣支持率がそれぞれ29%、32%と過去最低を記録したからだ。

報道前に数字を聞いた首相は「えっ、本当か」とショックを受けたとされるが、政府関係者によると支持率回復が望めない中でもこの先、首相が政権浮揚の〝目玉〟に考えているのはやはり減税と賃上げだ。


減税では、企業減税に加えて所得税減税を目玉に据える構えだが、その内容を詰めているのが官房副長官から党幹事長代理兼政調会長特別補佐に転じた最側近の木原誠二氏なのだ。


先の関係者が明かす。


「首相は週1回、朝一番で木原氏を公邸に呼び、減税の検討状況について報告させている。法改正が伴うので、来年度の税制改正に向けて近く党税制調査会が検討を始める段取りだ」


また、企業減税は賃上げを促すための投資減税の強化を検討。所得税減税では時限的な税還付も浮上しているが、一方の賃上げで首相が想定しているのは「4%」の大幅増だ。


国民民主党から一本釣りした矢田稚子首相補佐官を通じて、連合や民間労組側に使用者側への要求を強めるよう、政府も「異例の要請」をしているという。


確かに減税と賃上げがなされれば、家計は多少なりとも楽になるだろう。だが、物価高に追い付かなければ意味がなく、時限的措置でしかないなら、結局国民はぬか喜びで終わるのが関の山だ。


「しかも、国際情勢は緊迫の度合いを増しており、中国や欧州は不況の際に立たされている。頼みの綱の米国が利上げで失速すれば、日本経済は一気に冷え込み、賃上げどころでなくなるのは間違いない。首相は難しいかじ取りに追われることにもなりかねないのです」(政治デスク)


就任から2年を超えた岸田首相は、総裁再選に黄信号をともしながら、いよいよ大きな岐路に差し掛かっているのである。