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『君が手にするはずだった黄金について』著者:小川哲~話題の1冊☆著者インタビュー

『君が手にするはずだった黄金について』新潮社
『君が手にするはずだった黄金について』新潮社 

『君が手にするはずだった黄金について』新潮社/1760円

小川哲(おがわ・さとし)
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。2023年1月に『地図と拳』で第168回直木賞を受賞。

――『地図と拳』で第168回直木賞を受賞後、初の作品となります。この作品の構想は、いつからあったのですか?

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小川 短編集に入っている作品の中で、最も古い『三月十日』は2019年5月ごろに書いているので、そのときから漠然とした構想はありました。僕は短編を書くとき、「本にするときにどういうコンセプトでまとめるか」ということを決めて書くことが多いのですが、今回の『小説家「小川哲」を語り手にした作品集』という明確なコンセプトは、2020年に小説新潮で書いた『小説家の鏡』で固まったと思います。

――6編の短編はすべて「僕=小川哲」が主人公になっています。どうして、このような設定にしたのですか?

小川 僕は小説を書くときは必ず「小説を書くことで考えてみたいことや知りたいこと」があります。今回は「小説ってなんだろう」ということを小説家の視点から考えることが目標でした。その上で、登場人物の名前をどうせなら「小川哲」にしたほうが面白いだろう、という発想で、今回のような作品になりました。

承認欲求は「精神的なエネルギー」

――占い師の〝ウソ〟を見抜く方法には、感心させられました。このような知識はどこで得ているのでしょうか?

小川 本を読んだり、誰かから話を聞く中で知っていきました。まず前提として、僕が占いや非科学的なものに対する「本当なの?」という疑念があって、そこに自分なりの理屈をつけたいという欲求が存在します。もちろん、世の中には僕には理解できないことも多々あることは分かっているのですが、それでも「未知のものや理解し難い現象を自分なりに理解しようとする」という姿勢は、子供の頃から癖になっています。

――成功と承認を渇望するさまざまな人物が登場します。小川さんは自身の〝承認欲求〟をどのように捉えていますか?

小川 食料が人類の「物理的なエネルギー」であるとすれば、承認欲求は「精神的なエネルギー」だと思います。つまり、僕たちが社会的に生きていく上で必要不可欠なものだと思っています。自分自身で適切に「承認欲求」を満たせれば問題は起こらないのですが、自分の実力を超えた「承認欲求」を抱いてしまったりすることで、その渇きが人間の精神をむしばむのではないでしょうか。今回の作品集は、満たすことのできない承認欲求を無理やり満たそうとすることで生じる話を書いたつもりです。「生きる」ということの別の側面について考えるきっかけにしてもらえれば幸いです。
(聞き手/程原ケン)

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