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『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』著者:中村富士美~話題の1冊☆著者インタビュー

『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』新潮社
『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』新潮社 

『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』新潮社/1540円

中村富士美(なかむら・ふじみ)
1978年、東京出身。山岳行方不明遭難者捜索活動および行方不明者家族のサポートを行う民間の山岳遭難捜索チームLiSS代表。遭難事故の不明者について、丁寧な聞き取りをしながら、寄り添った捜索活動を行っている。

――中村さんが山岳遭難捜索を始めたきっかけは何だったのですか?

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中村 もともと、登山スポットの多いエリアの病院で救命救急センターに看護師として勤めていました。登山中にケガをして搬送されてくる方々を見て、「どうして山でケガをするんだろう?」と疑問に思っていました。そこから山岳救助に携わる方に導かれて山に登るようになり、あるとき、遭難者の方のご遺体を発見。民間の山岳遭難捜索団体から誘われて、本格的に遭難捜索に携わるようになり、2018年に独立。山岳遭難捜索チームLiSSを立ち上げました。

――捜索に〝プロファイリング〟を活用するそうですね。

中村 山の登り方・遭難の仕方には、その方の性格や癖が反映されます。例えば、少し大胆な性格の方の場合、山の中で道に迷ったとしても引き返さずに、そのまま先へ進んでしまうことも考えられます。また、遭難者の方がどういった登山用具を持って山に入ったかも、捜索の重要なヒントになります。例えば、いつもストックを両手に持って登山される方だったら、クライミングやロープを伝っての山登りはしないだろうと推測し、そこから登山ルートを絞り込めます。このように、遭難者の性格や、いつもの持ち物をご家族から丁寧に伺うプロファイリングが捜索の第一歩となります。

ずっと頭の中に残るものは…

――これまでで、特に印象に残っている捜索事例を教えて下さい。

中村 捜索実績はおおよそ7割弱です。逆に言えば、費用面などの都合で捜索継続が難しく、3割の方はいまだに見つけられていません。未発見の事例については、日常生活の中でふと「あそこを探したら、見つけられるかも…」「新たな策があるのでは…」と考えてしまいます。そういう意味では、見つけられていない案件こそ、ずっと頭の中に残っています。

――捜索には莫大な費用がかかるケースもあるといいます。遭難しないためには、どうしたらいいのでしょうか?

中村 LiSSの場合は、食費、交通費などを合計して、隊員1人当たり、日当は3〜5万円いただく形になります。捜索は常に2人1組で行いますので、残されたご家族へは経済面で大きな負担となります。山に登る際には「備え」が必要です。自然界にはない色で、捜索者の目に入りやすい青い色のものを身につける、自分がどの山に登るか出かける前に家族にちゃんと伝える、登山計画書を提出する、雨具や地図を持参する、といった基本的な備えを大切にしてほしいです。
(聞き手/程原ケン)

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