『決定版 寅さんの金言・現代に響く名言集』ART NEXT 
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『決定版 寅さんの金言・現代に響く名言集』著者:立川志らく~話題の1冊☆著者インタビュー

立川志らく(たてかわ・しらく) 落語家。1963年、東京生まれ。1985年、立川談志に入門。1995年、真打昇進。落語家、タレント、劇団主宰と幅広く活動。山田洋次監督との親交も深く、監督も認めるほどの「寅さん博士」。
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――そもそも『男はつらいよ』を見始めたきっかけはなんだったのですか?


志らく 落語家になってから特にフランキー堺、三木のり平、森繁久彌関連の喜劇を見るようになりました。そのうち渥美清に行き着き、関連作品を見ていて『男はつらいよ』をちゃんと見ていないことに気がつき、1作目から一気に48作まで鑑賞した後、今度は48作から順に戻ってみた。さらに、マドンナの好みやゲストでチョイスして見るようになり、『男はつらいよ48作ひとり語り』という話芸を作り上げたのです。これを落語会で披露したところ、ウワサを聞きつけた山田洋次監督が聴いて「志らくは俺より詳しい」と驚嘆してくれました。


――ズバリ、寅さんの魅力とは?


志らく 日本人の憧れであり理想の生き方ですね。しかし、絶対に寅さんにはなれないことは誰しもが分かっている。だから、映画の世界に没入して擬似体験をするのです。

陶芸家の弟子にズバッと言い切る

――イチ押しの寅さんの「金言」を教えて下さい。

志らく 29作で寅さんが柄本明演ずる陶芸家の弟子と会話するのですが、「12年も修業しているのか、大したもんだなあ」と感心しつつ「見込みないんじゃないか。諦めるなら早い方がいいよ」とズバッと言い切る。普通、ここまではっきりとは言えない。それを嫌味ではなく気持ちよく言ってあげられるすごさが寅さんにはある。


この弟子は、自分は目標をもってやっていると胸を張るが、寅さんは「目標を持ってやっているから駄目なんじゃないか」と芸術の本質を見事に言うのです。談志の言葉で「人生成り行き」と言うのがあるが、芸術や芸事は才能の世界で、成り行きでやった結果、大成するのであって、目標を持ってコツコツやるようなものではないのです。


――寅さんは最後まで独身を貫きました。どのマドンナがお似合いだったと思いますか?


志らく 一番合うのはリリー。それは同類の人間だからです。しかし一番一緒にしてあげたかったのは32作の竹下景子演ずる朋子さんですね。2人は愛し合っていた。しかし朋子さんの家はお寺で、結婚をしたら寅さんは婿となり寺を継がないといけなくなる。もちろんそれは無理なことで、そのことが分かって2人は愛し合ったまま別れるのです。


寅さんの人情と古典落語のおかしみが通用しなくなった時点で、日本人が日本人ではなくなると私は危惧しています。だから落語家である志らくが、男はつらいよの伝道師となって活動しているのです。 (聞き手/程原ケン)