岸田首相が掲げる「減税」は目くらまし…一皮めくれば“個人負担増”のワナ
税収が上振れしていることを踏まえ、岸田文雄首相が突如「減税」を言い出した。この秋の衆院解散・総選挙をにらんだ発言なのは明らかだが、「次元の異なる少子化対策」の財源はいまだ確保されておらず、防衛力強化のための増税も既定路線となっている。個人の懐が潤う減税になるかどうかは不透明で、結局は将来想定される「負担増」への批判をかわすための〝目くらまし〟と評判なのだ。
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9月25日、首相官邸で岸田首相は記者団に「成長の成果である税収増を国民に還元する」と言い放ち、「減税」に言及した。
だが、よくよく聞いてみると首相の口から出てくるのは、賃上げ企業への減税や特許所得などの減税制度の強化など、企業相手の減税が中心だった。
国民に還元する減税といえば所得税減税や消費税減税などが思い浮かぶが、そうではなかった。世間で「偽減税」と批判されるゆえんである。
全国紙政治部記者が言う。
「財務省主導の増税政権というイメージを払拭したいだけの『減税詐欺』ですよ。首相の頭にあるのは次期衆院選で勝利し、来年9月末の任期満了に伴う自民党総裁選で再選を果たすこと。つまりはやっているふりで、国民をバカにしている。見かけ倒しに終わるのは、間違いありません」
また、別の政治部デスクからはこんな声も上がっている。
「首相は周囲に『思い切った経済対策をやらなければならない。今が正念場だ』と、まるで減税が自身に与えられた使命かのように漏らしているが、長期政権を築くことが基本戦略。シナリオ通りに来秋の自民党総裁選で再選できれば、次の任期中には宏池会(岸田派)の創設者、池田勇人元首相の在職日数を超える。そのため、茶番も甚だしいとウワサになっているのです」
実際、政府は税収増といえども、政策の財源確保に四苦八苦。財務省関係者は、「減税などしている余裕はない」と話す。
代表的な例は少子化対策だ。政府は、年間3兆円台半ばの追加予算を投入する方針を掲げている。財源は社会保障分野の歳出改革と、国民が幅広く加入している公的医療保険の保険料を上乗せして徴収する「支援金制度」の創設などで賄う方向だ。
岸田首相は「国民に実質的な追加負担を求めない」と語るが、そんな言葉を信じる者は自民党内ですらほとんどいない。そもそも歳出改革をしようにも、高齢社会において医療・介護サービスを削るのは至難の業。歳出改革の名の下にサービスが低下して困るのは、高齢者を中心とした国民だからだ。
しかも、来年度は医療サービスの対価として医療機関に支払われる診療報酬改定の年。自民党の支持団体である日本医師会は、物価高を背景に診療報酬の引き上げを求めている。解散・総選挙がささやかれる中、首相は日医の意向をむげにはできないだろう。
結果、医療保険料の上乗せに頼らざるを得なくなる可能性があり、待っているのは税の負担増でしかなさそうだ。
減税の党内議論は暴走中
一方、防衛費については約1兆円を法人税、所得税、たばこ税で賄うとしているが、増税の実施時期は決まっていない。ことほどさように、負担増から逃げまくっているのが、岸田政権の実態なのである。果たして、税収の上振れ分は、個々人に恩恵をもたらしてくれるのか。「減税詐欺」「偽減税」と批判されることを懸念する自民党の茂木敏充幹事長は、10月3日の記者会見で「税収増分を政策に使って国民に還元することもあるし、ダイレクトに減税措置などによって国民や企業に還元することもあり得る」と語った。
また、同党の世耕弘成参院幹事長は「税の基本は法人税と所得税なので、当然、減税の検討対象になってくる」と、暗に個人に対する減税を政府に迫った格好だ。
もっとも、減税騒動はこれだけにとどまらず、ついには消費税減税を訴える議員まで出始めた。自民党の若手議員らによる『責任ある積極財政を推進する議員連盟』のメンバーは、消費税率を5%にする時限的引き下げを求めている。そこに財政規律の議論はなく、減税に向けて党内論議は「暴走」している。こうした現状に、当の首相は戸惑い気味だという。
一方、岸田首相の「減税」発言に、野党は焦りを隠せない状況に陥っている。立憲民主党は、昨年の参院選や一昨年の衆院選の公約に「税率5%への時限的な消費税減税を目指す」ことを掲げていたが、今回の自民党若手議員らの動きにお株を奪われた格好だ。党内からは「自民に消費税減税を言われたら、野党は埋没し、自民との差別化を図れない」とため息が漏れているという。
そのためか、立民のベテラン議員の間には現実路線を歩む政党であることを訴えるため、公約から「消費税減税」の削除を求める声も上がっているほどだ。
ただ、首相は所得税減税に踏み切る可能性はあるものの、財務省政権であるため消費税減税まで行うつもりはサラサラないとみられている。〝魂〟までは売らないというわけだ。
ともあれ「減税」を連呼しておきながら、個人減税はせずに企業減税しかしなかった場合は、完全に信頼を失うことになるだろう。まさに、この秋の衆院解散を目論む岸田政権の命運は、そこにかかっているとも言えるのである。
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