自公国連立は幻に…岸田政権が“小渕優子”登用で長期政権実現に狂いが!?
第二次岸田再改造内閣は多くの女性登用を図ったものの、来年秋の党総裁選再選をにらんだ、あまりに〝内向きの布陣〟と世の評価は散々だ。このままでは衆院解散・総選挙と、長期政権実現への戦略に狂いが生じかねない状況を迎え始めた。
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「今回はあきらめよう。11日の週に内閣改造と自民党役員人事を行いたい」
翌日にインドネシアとインド訪問への出発を控えた9月4日、岸田首相は自民党本部の総裁室で麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長に告げた。
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内情に詳しい自民党関係者によると当初、首相は9月中旬か下旬での人事断行を考えていた。鍵を握っていたのは、麻生、茂木氏が国民民主党の玉木雄一郎代表と水面下で進めてきた自公国連立政権の構想が実現するかどうかだった。
国民民主は2日の代表選で玉木氏が前原誠司代表代行に勝利していた。ここで連立入りという流れができれば、連立協議を行う時間が必要になるため、一連の人事は9月下旬に行う腹づもりだった。
国民民主との連立にそれほど前向きではなかった首相が前のめりになったのは、7月初めに自民党本部で長く金庫番を務めてきた元宿仁事務総長と東京・赤坂の日本料理店『赤坂梢』で会食してからだ。
あまり知られていないが、国民民主を支える自動車総連など一部の民間産別労組は、昨年7月の参院選で同党の候補者が立っていない選挙区では水面下で自民党を支援。自民党は1人区で競り勝つなど、事実上の選挙協力が行われていた。この差配をしたのが元宿氏だったという。
関係者によると元宿氏はこのときの成果を基に、この秋に衆院解散を断行したいなら国民民主との連立を実現させるべきだと説いた。
岸田首相は茂木氏に不満を…
首相は総裁再選を第一の目標に据えているが、仮に衆院選に踏み切っても負け幅が小さければ再選への道筋は付く。内閣支持率の低迷で年内の解散は困難との見方が強まる中、首相は条件次第での解散も視野に入れていた。それが国民民主との連立による産別労組の取り込みだった。関係者によると、首相はパナソニック・ホールディングスの楠見雄規社長を通じて、電機連合出身でこの夏にパナ社員に戻った、国民民主前参院議員の矢田稚子氏の入閣を求める意向だった(その後、首相補佐官に登用)。
だが、その後の水面下での個別協議で、産別側から時期尚早といった慎重論が続出。元宿氏から事の次第を聞いた首相が国民民主の連立入りの見送りを決めたのが、4日の「三頭会談」だったというわけだ。
産別労組を引き寄せ、「あわよくば解散する」という目論見が外れたことで、人事に臨む首相の軸足は「選挙向け」から「総裁再選向け」へと移った。今なお国民的人気を維持する石破茂元党幹事長の起用も、この段階でなくなった。
首相の心中を占めていたのは、総裁選で最大のライバルになり得る茂木氏の処遇をどうするかということだった。首相は総裁選出馬への意欲を隠さず、政策面で独断を繰り返す茂木氏に不満を募らせており、交代させたいと考えているのは、永田町で「周知の事実」だった。
首相の脳裏にあったのは、党内実力者の一人で、首相と距離を置く菅義偉前首相や二階俊博元党幹事長と近い森山裕党選対委員長を幹事長に据え、茂木派内で将来の総裁候補と目される小渕優子党組織運動本部長も党四役に抜擢する案だった。
外された茂木氏は総裁選準備を加速させる可能性はあるが、小渕支持派は主流派にとどまろうと首相支持での結束が見込まれ、茂木派内の分断も見込める。
「そのため、首相は5日からの外遊に向かう前、側近に『今回は思い切った人事を行いたい』と伝えていた。この時点では間違いなく茂木氏の交代を考えていた」(前出・関係者)
だが、ふたを開けてみると茂木氏は留任で、小渕氏は茂木氏と同じ派閥でありながら、森山氏の後任の選対委員長となり、四役のうち2つを同じ派閥出身者が占めるという異例の人事となった。
人事には長老連の思惑も
内閣改造を含めて他の人事にも目を転じると、11日午前、インドから帰国したばかりの岸田首相から、真っ先に首相公邸に呼ばれた萩生田光一党政調会長は、「官房長官をお願いするかもしれない」と打診された。しかし、松野博一官房長官をはじめ、安倍派の「5人衆」といわれる西村康稔経済産業相、高木毅党国対委員長、世耕弘成党参院幹事長と共に、5人そろって留任となった。
続投とみられていた林芳正外相は、同じ岸田派のベテラン、上川陽子元法相にポストを譲り渡した。官邸関係者によると、米国から親中派に見られ、林氏が思うような日米関係が築かれず、8月に自ら辞任を首相に申し出たのが真相だ。
上川氏を含め5人の女性閣僚を登用して独自色を見せたものの、他の閣僚は多くが各派閥の推薦をすんなりと受け入れた「滞貨一掃」の顔触れとなった。
一体なぜこのような人事になったのか。首相に近い政府関係者が話す。
「結局、総裁選再選を優先し、独自色は出さなかったということだ。安定を重視し、主流派体制を維持するため、長老の意見を最大限尊重した結果、こうなった」
ここで言う長老とは麻生氏と、党内最大派閥の安倍派に隠然たる影響力を持つ森喜朗元首相のことだ。
関係者によると「麻生氏は、政権の安定を考えて茂木氏の続投を強く求めた。首相は迷ったが、最後は麻生氏に従い『三頭体制』の維持を決めて12日、茂木氏に続投を伝えた」という。
麻生氏はさらに、萩生田氏の官房長官起用について、萩生田氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が蒸し返されるのを危惧し、やめるよう進言した。
麻生派の閣僚経験者によると、麻生氏は自身の政敵である古賀誠元党幹事長に近い林氏が力を付けるのは好まず、同じ宏池会の上川氏を「初の女性総理」になり得る立場に引き上げ、林氏をけん制しようと目論んだ。ただ「重要閣僚は留任ばかりで上川氏に充てるポストが残っておらず、結果、外相になった」という。
岸田派のベテラン議員によると、首相が森氏に小渕氏の重用を促されたのは、6月14日に東京・中野の宝仙寺で営まれた青木幹雄元自民党参院議員会長の葬儀に参列した際だ。
首相は、青木氏が眠る柩を挟んで向かいに立つ森氏から「青木さんのご遺志を大事にしてほしい」と求められていた。森氏の後ろには小渕氏と、青木氏の長男である一彦参院議員が控えていた。
青木氏は生前、小渕氏の後見人役を担っており、「政治とカネ」問題で一度失脚した小渕氏の復活に期待をかけていた。首相は青木氏の霊前で森氏に「分かりました」と応じ、小渕氏は深々と頭を下げた。小渕氏の登用は、この段階で約束されていたのだった。
今回の人事で岸田首相は、内閣支持率が上向けば、年内の衆院解散・総選挙も視野に入れられると踏んでいたのは間違いない。
8月以降、東京での選挙協力問題で悪化した公明党との関係修復に自ら動き、東京電力福島第一原発で発生し続ける処理水海洋放出に踏み切ったのは、そのためだとみる向きは永田町に多い。
10月中にも、旧統一教会の解散命令請求や経済対策、その裏付けとなる23年度補正予算案の取りまとめを目指すのもそうだ。
だが、人事後の主要メディアによる世論調査の多くが、内閣支持率はほぼ横ばいで、底上げ効果は不発という結果となった。
新閣僚に金銭問題が噴出
一方で10月からは、実質増税だとして批判が強い、消費税のインボイス(適格請求書)制度が始まる。マイナンバー問題も依然としてくすぶっており、新任閣僚からはさっそく問題も出始めた。加藤鮎子こども政策担当相の政治資金管理団体から実母に家賃名目で月額15万円が5年間にわたって「還流」していたことが判明。党では小渕氏の資金管理団体からも、親族の関連団体などに資金が流れていたことが明らかになった。
小渕氏に関しては14年、自身に関係する政治団体が支持者を対象とした観劇会の費用をめぐり、不透明な会計処理を行っていたとして、2人の元秘書が政治資金規正法違反で有罪になった。
東京地検特捜部が小渕氏の地元事務所を家宅捜索した際、政治資金関係の書類が保存されたハードディスクがドリルで破壊されていたことから、小渕氏は今に至るまで〝ドリル優子〟と批判されている。
自民党関係者が言う。
「父の故恵三元首相は倒れる直前まで、NTTドコモの未公開株疑惑や那覇空港のターミナルビル利権などで追及されていた。日本歯科医師連盟の1億円闇献金事件で逮捕されたのは、元秘書だ。小渕氏はこうした利権まみれの構造をそのまま引き継いでいる。今回の登用は凶と出るのではないか」
また旧統一教会関係では、これまでに何らかの関係があることが判明していながら、鈴木淳司総務相、盛山正仁文部科学相、木原稔防衛相、伊藤信太郎環境相の4人が入閣した。これが新たな火種となる可能性もゼロではない。
さらに、新型コロナウイルス感染の第9波も始まっており、地方では医療機関が少しずつひっ迫し始めていることも懸念材料だ。
こうした状況から、いつ何時政権が大きく揺らぐ状況にならないとも限らず、永田町では年内解散は遠のいたとの見方が強まっているのが実情だ。
実際、首相は外遊先の米ニューヨークでの記者会見で「改造内閣は発足したばかりだ。先送りできない課題について一意専心、取り組んでいく」と述べるなど、踏み込んだ言い回しはしなかった。
だが、岸田派(宏池会)のベテラン議員は「首相は政権運営への自信は失っておらず、めげていない」と指摘する。
「なぜなら、経済は好調だ。名目GDP(国内総生産)も税収も増えている。来年の大幅賃上げだっていける。景気が良ければ政権は倒れない。何よりも首相を脅かすライバルがいないため、慌てて解散する必要はなく、実績を積み重ねていけば結果はついてくる」
人事翌日の14日夕、首相は山梨県の富士急ハイランド内のホテルで開かれた岸田派研修会に駆け付け、あいさつに立ちこう話した。
「宏池会の先生方に支えられてここまできた。明日は必ず今日よりよくなる時代を宏池会がしっかりとリードしてつくっていく。こうした気迫を持って臨んでいきたい」
本当にそんな時代が訪れるのかは、まさに今後の政権運営の在り方次第と言えそうだ。
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