蝶野正洋 (C)週刊実話Web 
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蝶野正洋『黒の履歴書』〜中国への海産物輸入禁止から見る日本の外交

いま日本は、エネルギー高騰や食糧などの物価高に円安が追い打ちをかけていて、輸入の安定が課題となっている。さらに安全保障面でも中国、ロシア、北朝鮮といった近隣諸国との緊張が高まっていて、そんな状況を打開しようと岸田首相が外遊を続けている。


7月にはNATO首脳会議、EU首脳会議で欧州をめぐり、中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを歴訪。8月は米韓との3カ国首脳会談。9月はASEAN首脳会議でインドネシア、G20サミットでインド、さらにニューヨークでの国連総会にも出席した。


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ただ、ハッキリとした成果があまりなく、日本の外交の弱さがより浮き彫りになったようにも感じる。


そんな中、原発の処理水問題で中国が日本の水産物輸入禁止を打ち出した。近年、中国への水産物輸出の取扱量は増えていただけに、ダメージが大きいと報道されている。


でも俺は、表向きは禁止しても、どこかから日本の魚を中国に入れる業者は出てくると思う。そこで日本側の足元をみて、不当にダンピングされるかもしれない。要するに、今回は環境への影響に対する抗議ということだけど、結果的に中国側が得をする方向に向かっている気がするんだよね。


何かを禁止すると、それをビジネスに利用するという動きが必ず出てくる。


日本は武器や軍事的に利用できるモノは輸出できないというルールがある。でも、裏ではさまざまなルートがあり、日本製品が出回っているという実態がある。


例えば、世界の紛争地域で日本の有名メーカー製のオフロード車がたくさん使われている。まさに軍事利用だけど、これを厳密に取り締まるという話はあまり聞かない。クルマだけじゃない。日用品から計測機器まで、さまざまな日本製品が戦場に流通している。

日本ならではの進め方で

これが日本ならではの「本音と建前」なのかもしれないけど、ただ、それをどこまで理解してやっているんだろうとは思う。

ロシアで民間軍事会社ワグネルを率いていたプリゴジン氏が8月、飛行機墜落で亡くなった。欧米諸国ではプーチン大統領によって暗殺されたとほぼ断言していたけど、日本の一部メディアは、そんなに堂々と殺すなんて、いまの時代あり得ないと報道していた。でも政権に反旗を翻して失敗したら粛清されるというのは世界では常識なんだよ。


日本は戦後80年近く平和でいられたけど、これは歴史的に稀にみることだと思う。その他のほとんどの国は紛争があったり、内乱が勃発したりと、油断したらどこかが攻めてくるというのが当たり前。平常時でも警戒心や緊張感を忘れない。


日本も明治・大正・昭和初期まで、戦争や暗殺、クーデターが頻発していた。戦国時代まで遡れば、対抗勢力の粛清なんて当たり前。証拠がなくても怪しいと思ったら殺していた。それが今も世界の常識だと、改めて理解するべきだよね。その上で、戦争をしていない日本だからこその外交を考えていけばいいと思う。


ルールを破る奴らは必ずいる。それを知った上でそれでも日本は道徳的に物事を進めていくという覚悟が必要だね。日本は中国の大気汚染PM2.5予報を出してるように処理水放出の予報を国内外に公表すべきだろ。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。