森永卓郎 (C)週刊実話Web
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物価高対策は消費税を下げること~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

これまで政府はデフレ脱却の基準は、①消費者物価上昇率が2%超、②GDPデフレーターがプラス、③需給ギャップがプラス、④単位労働コストがプラスという4条件を継続的に満たすことだとしてきた。


4~6月期のGDP速報が発表され、4条件がすべて満たされたことで、デフレ脱却への期待が高まったところに衝撃の数字が発表された。7月の家計調査で、物価を調整後の消費支出が5.0%の減少と、2年5カ月ぶりの大きな減少となったのだ。


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費目別に見ると、特に減少率が大きかったのは、教育費の▲19.8%と住居費の▲18.6%だ。塾の費用や家賃を思い切り削減しなければならない窮状に、家計が追い込まれていることになる。


もちろんその理由は、物価高に伴う実質所得の減少だ。毎月勤労統計によると、7月の実質賃金は前年比▲2.5%の大きな減少となっている。7月はボーナスの支給月なので、ボーナスが増えればプラスになるとの観測もあったが、実際には、実質賃金は16カ月連続のマイナスとなり、減少率も6月の▲1.6%から拡大した。


岸田総理は、これまで「賃金と物価の好循環を実現する」としてきたが、その戦略は、完全に失敗に終わった。こうなったら、国民生活を圧迫している物価高を何とかするしかない。そこで政府は9月末までとしてきたガソリン代と電気代を抑制するための事業者への補助金を、年末まで延長することを決めた。しかし、その内容はあまりに貧弱だ。例えば8月まで1キロワット時当たり7円だった電気代の補助金は、9月からは半額で継続される。昨年は1リットル当たり最大35円を出していたガソリンに対する補助金は、今回10.2円に抑え込んでいる。なぜそんなに対策がセコいのか。

なぜか小出しの対策のみ

エネルギーに対する補助金は、昨年度の第二次補正予算で措置されたが、それが2兆円ほど残っている。今回の対策は、その残りの予算で済まそうとしているのだ。今年度の予算にも物価高対策のための予備費を4兆円も計上している。これだけ物価高で国民が苦しんでいるというのに、小出しの対策しか打たないのだ。

ただ、ガソリンへの補助金支出には、二つの批判がある。一つは車を所有しない人への恩恵が少なく、不公平だというもの。もう一つは、化石燃料の値上がりを補助金で抑制すると、再生可能エネルギーへの転換が遅れるというものだ。この二つの批判は一理あると私は思う。それではどうしたらよいのか。答えは簡単だ。消費税率を下げればよいのだ。


例えば消費税率を5%に引き下げるだけで、実質賃金は前年比プラスになる。そうなれば消費が増えて、経済に好循環がもたらされる。5%に下げるためには14兆円ほどの財源が必要になるが、問題はない。すべて国債で賄って、その国債を日銀がすべて買い取ればよいのだ。安倍政権のときは、毎年80兆円を目途に日銀が国債保有を増やした。それで、国債の暴落も、為替の暴落も、インフレも起きなかった。だから14兆円など、誤差の範囲内だ。私は消費税を全廃しても、何の問題も起きないと考えている。


コロナ期を中心に、世界では91の国と地域が消費税を減税した。最も効率的で効果的な景気対策を海外はできて、日本はできない理由はどこにもないだろう。