森永卓郎 (C)週刊実話Web
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現在も急拡大中の新型コロナウイルスのデータは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

8月31日、青森県が独自に設けた新型コロナの注意報を発表した。一医療機関あたりの感染者数は、昨年夏の第7波のピークのときが55.71人、昨年冬の第8波のピーク時が42.48人、これに対して、今年8月末で31.3人まで増えている。しかも感染者数は急増しており、過去最大級の波になる可能性があるとしている。


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実は、これは青森県だけの話ではない。政府が5月に毎日の感染者数の発表を取りやめた後も、モデルナ社が全国の感染者数の推計値を発表している。これによると、9月4日の感染者数は12万4710人と、急拡大中なのだ。このまま行くと、全国レベルでも過去最大の感染者数が出ても不思議ではない状態だ。


そうしたなか、8月31日に加藤厚生労働大臣は、新型コロナの治療費に対する支援を段階的に縮小し、来春に廃止する考えを示した。例えば10月以降は抗ウイルス薬による治療費は、所得に応じて一部自己負担を求める方向で調整がなされており、入院費補助や、診療報酬、医療機関が病床を確保した際の補助金も縮小する方向で検討が行われている。


なぜ感染急拡大のなかでコロナ対策を縮小するのか、政府は明確な説明をしていない。ただ、専門家はコロナの「弱毒化」が原因ではないかと言う。感染しても、死に至るリスクが大幅に減ったから、普通の病気の扱いにするというわけだ。だが、本当に新型コロナは弱毒化したのだろうか。


5類移行前には毎日発表されていた新型コロナの死亡者数は、現在リアルタイムでは発表されていない。人口動態統計による死亡者数が分かるのは、およそ5カ月後だ。それよりも早く分かるのは、厚生労働省が発表している「死亡診断書(死体検案書)の情報を用いたCOVID-19関連死亡数の分析」という資料だ。

せめて正確なデータを示して

ただ、これでも現在分かっている最新のデータは、6月分までだ。それによると、6月の新型コロナ関連死者数は1582人で、前年同月の869人よりも大幅に増加している。これまでの経験では感染者数が急増すると、いくら死亡率が下がっていても死亡者数が大幅に増える。感染者急増のなか、すでに大量の死亡者が発生している可能性は否定できないのだ。

緊急事態宣言を出せと言っているわけではない。そんなことをしたら、3年間にわたって危機的状況に陥った観光業や飲食業、エンターテインメント産業などが再び失速してしまうだろう。ただ、マスクを着けるかどうか、検査を受けるかどうか、ワクチンを接種するかどうかなど今、新型コロナへの対峙の仕方は国民に委ねられている。だからこそ、政府は正確で迅速なデータを国民に示すべきではないのか。新型コロナの感染状況の把握のため、医療機関に莫大な負担をかけてきたというが、それは感染者に関する膨大な情報提供を求めたからで、感染者数とその年齢、死亡者数を報告するだけだったら、片手間でできる話だ。


22年の日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳と、2年連続で短命化している。2年前と比べると男性で0.51歳、女性で0.62歳の短命化だ。国民が長生きできる社会を作ることは、政府の最大の責務だ。もし今年も短命化が進んだら、私は政府の最大の政策ミスになると思う。それを防ぐためにも、コロナの実態から目をそらせてはいけないのだ。