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電通、エイベックス…人気企業「本社ビル売却」が呼ぶ波紋~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

今年1月下旬、国内最大の総合広告代理店である電通が、東京・汐留の本社ビル売却を進めていると報じられ、世間の耳目を集めている。売却額は3000億円規模で、稼働中のビル物件の取引としては国内最大となる見込みだ。

現在、電通に見られるように、都心の一等地にあるオフィスを売却、もしくは縮小する動きが大企業間で広がっている。その理由としてはテレワーク(在宅勤務)の浸透により、都心に大型オフィスを構えるメリットが薄れてきたことが挙げられるが、もちろん自社ビルを失う衝撃は大きい。

今回の電通本社ビル売却について、全国紙経済部記者が解説する。

「電通グループが本社ビル売却を検討する最大の理由は、業績不振にあります。2020年12月期決算は売上高11.3%減の9287億円で、最終的には237億円の赤字。新型コロナの影響で国内外の広告事業が苦戦し、2年連続の最終赤字となりました」

電通本社ビルは地上48階建てで、02年に完成した。ブーメランを思わせる独特の形状を持つ高層ビルで、派手な社風を象徴するようなシンボルタワーだ。このビル売買では、みずほ銀行系列の大手不動産会社「ヒューリック」が、優先交渉権を手にしたという。

その背景を不動産関係者が推測する。

「これまで都心の一等地にある大規模なオフィスビルは、旧財閥系を中心とした日本の大手資本が独占しており、海外資本に売却されることはまずなかった。ヒューリックが交渉を始めたという情報が飛び交っているが、先々には決裂する可能性もある。それを期待して欧米や中国の投資家は、虎視眈々と様子をうかがっていますよ」

コロナ禍で都心のオフィス環境が変化

電通は本社ビル売却後、会社機能をどう維持するのか。広告業界関係者が言う。

「新型コロナの影響で社員のテレワーク化が一気に進み、電通ビルに勤務する約9000人の出社率は今や2割程度です。すでに余剰スペースが生じていることから、売却後は本社機能を大幅に縮小し、電通ビル内に〝店子〟としてとどまる方向です」

社内には「家賃を払うなら売却しなくても…」という声もあるが、売却益プラス税金も大幅安が見込めるため、賃貸のほうが資産効率的にもよくなることは間違いない。

電通と同じ汐留地区で、もう一つ破格の売却話が浮上している。前出の不動産関係者が言う。

「物流大手の日本通運(日通)が本社ビル売却を検討しています。本社ビルは03年に完成し、地上28階建て。日通は拠点集約のため東京都千代田区に新本社ビルを建設しており、9月以降に移転する予定です」

汐留のビルは本社移転後、当初は賃貸として運用する計画だったが、新型コロナ禍で都心のオフィス環境が変化し、計画の見直しを迫られたようだ。

「テレワークが浸透して都心部から人が消えてしまった。そのため仮にコロナが収束しても、オフィスの空洞化に歯止めがかからない可能性が高まり、賃貸から一転、売却に切り替えたようです。売却額は1000億円超を想定し、国内外の投資ファンドが関心を寄せています」(同)

有名企業の自社ビル売却は枚挙にいとまがない。昨年暮れ、日本の音楽シーンのトップを走り続けてきたエイベックスグループが、東京・南青山の本社ビル売却を発表した。売却額は約720億円前後だという。

投資ファンドは虎視眈々…

同社の関係者が言う。

「近年のエイベックスは、TRFや浜崎あゆみのような業界をけん引するアーティストを生み出せず、業績は下降の一途。おまけに昨年からのコロナ禍で、得意とする大型イベントが続々中止に追い込まれたのが痛かった。悲運にも〝築3年余り〟で、本社ビルを手放すことになりました」

この動きは総合商社の丸紅にも波及する。経営コンサルタントが明かす。

「丸紅の場合は今年5月に、東京・日本橋から大手町の新社屋に移転します。ビル売却とは少し違いますが、テレワークの浸透で、新オフィスでは現在4000ある社員座席を2800まで減らす。縮小の典型です」

かつて右肩上がりの時代には、大手企業が都心一等地への自社ビル建設を競っていた。しかし、昨年来のコロナ禍で働き方が激変し、自社ビルより「資産効率」を選択することがトレンドになりつつある。

「都心からオフィスが消え去り、ホテルや商業施設ばかりになるかというと、そこまでは言いきれない。投資ファンドは『今まで凍結されていた不動産がコロナ禍で動いた。この千載一遇のチャンスに、多少の無理をしてもビルを手に入れておけば損はしない』と読んでいる。使い道は後から考える方針です」(同)

一方、自社ビルを売却した企業にすれば、「背に腹は代えられない」ということだろう。そのため、今後も思わぬ売却話が浮上する可能性は高い。

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