森永卓郎 (C)週刊実話Web
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ガソリン価格高騰の対処は…~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

岸田総理は9月末で廃止する予定だった燃料価格抑制のための石油元売りへの補助金を継続する方針を決めた。全国のガソリン平均価格が180円を超え、国民から悲鳴が上がっているからだ。


直近のガソリン価格高騰は、補助金削減の影響が大きい。昨年までは、小売価格が1リットル当たり168円を超える部分に関しては、上限35円までを全額補助した上で、さらなる超過分についても2分の1を補助していた。しかし、今年1月から5月にかけて上限額を毎月2円ずつ引き下げ、6月以降は上限が25円になっている。さらに超過分についても、6月以降は2週ごとに補助率を1割ずつ引き下げ、9月末で廃止ということになっていた。


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資源エネルギー庁の資料によると補助金の効果が一番大きかったのは、昨年7月11日で、本来214.6円だったガソリン価格が172.7円まで41.9円抑制されていた。直近の今年8月21日のデータでは、本来196.0円のガソリン価格が183.7円まで12円抑制されている。直近の元売りへの補助金は10円だという。


なぜ政府が補助金を急速に減らしていたのかというと、現在支給されている補助金は、昨年度の2次補正予算に計上した3兆円を財源にしており、このままでは財源が底を突いてしまうからだ。ただ、3兆円の予算で8カ月も実施できたのだから、同程度の予算があれば十分な価格抑制ができる。つまり予備費だけで十分対応できるということだ。

特別税率の廃止がいいのだが…

もっとも、補助金を継続ではなく、特例税率の撤廃や円高誘導を求める声も大きい。そこで、それぞれの効果を検証してみよう。

現在ガソリン価格は本体価格に加えて、揮発油税が28.7円、元々臨時増税だった特例税が25.1円、石油石炭税が2.8円加算され、これらの合計に10%の消費税が加わる。この特例税を廃止すると本体価格は変わらないとしても、ガソリン価格は156.1円まで下落する。27.6円の値下がりで、その効果は絶大だ。


一方、同じ効果を為替の円高誘導で達成しようとすると、8月21日に145円だった為替を112円まで円高にしないといけない。これは現実にはなかなか難しい水準だが、方法がないわけではない。為替の決定要因で一番大きいのは、両国の資金供給量の比だ。つまり、日本の金融を引き締めれば、円高になる。


どれだけ金融を引き締めればよいのかは、なかなか予測が難しいのだが、少なくとも短期金利をアメリカ並みの5%程度までは引き上げる必要があるだろう。そうしたら、借金を抱える中小企業はバタバタつぶれるし、住宅ローンを抱えているサラリーマンもたまったものではない。例えば3000万円を35年の変動金利ローンで借りている人の月間返済額は、現在の0.3%の金利だと7万5000円だが、金利が5%に上昇すると、返済額が15万円と倍増してしまうのだ。それに耐えられるサラリーマンは、あまりいないのではないか。


そう考えると、特例税率を廃止するのが、ガソリン価格抑制には一番筋が良いと思えるのだが、財務省は減税、特に国民全体への減税をとても嫌がる。減税しても利権に結びつかないからだ。後は、政治のリーダーシップにかかっている。