監督/メアリー・ハロン
出演/ベン・キングズレー、バルバラ・スコヴァ、クリストファー・ブライニー、ルパート・グレイヴス、アレクサンダー・ベイヤー、アンドレア・ペジック、スキ・ウォーターハウス、エズラ・ミラー
配給/キノフィルムズ
ピカソと並ぶ20世紀最大の芸術家&ヘンテコな絵を描く人間の1人、サルバドール・ダリ。絵は見たことがなくても、あのピンッと跳ね上がった口ひげが印象的な、変わった風体は誰もがご存知なはずです。1989年没ですから、平成元年まで生きていたんですね。
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さて、キンキラキンの70年代ニューヨークを舞台に、ダリの日常と制作現場、つまり〈ダリ・ランド〉を描いた本作。最近は本人に酷似した人が演じる自伝的映画が多い気がするのですが、本作は中でも特筆すべき作品ではないでしょうか。見ているうちに、本人出演のドキュメンタリーかと錯覚を起こすほど。そして今回、もう1人の主人公、画廊から出向してダリのアシスタントになる、美貌の若者ジェームスも長編映画初出演らしい新鮮な演技がとてもハマッています。
そうしたドキュメンタリー臭に色を加えているのが、晩年のダリがジェームスを案内する故郷スペイン・カタルーニャの岬。よくあるブルーと白の地中海イメージとは異なる、鈍く淀んだ空、アフリカからの風が吹きすさぶような雰囲気、ゴツゴツした岸壁…。ダリの作品の不穏なムードの根源はここだったかと、聖地巡礼しているような気分にさせてくれました。
あの名作が生まれた地
一番有名な「溶けている時計」の絵もこの岬を遠景に、当時住んでいたという粗末な漁師の家の中を描いたことを本作で知りました。部屋の暑さで中身がドロッと溶け出ていたカマンベールチーズから発想したんですね。自分は初めての海外旅行で立ち寄ったニューヨーク近代美術館で本物を見ましたが、B4版ほどの小さな作品でした。
本作を見る前のことですが、ネットオークションでダリのリトグラフを見つけていたんです。「真正」でも安いものだと2〜3万円。へぇ、ダリ作品が手に入るのかと思っていたところでしたが、本作の中で、白紙にダリがサインだけ書きまくって、お札を刷るようにリトグラフを乱造していた様子が出ていました。おそらくオークションに出ていた安物は、こういう過程で刷られたものかもしれない。うっかり手を出さずにすみました。
さて、世に名高い悪妻の1人、ガラ。ダリは創作から日常生活まで妻に頼っていて、「さっさと描け!」とガラから怒鳴られて創作意欲が湧くというシーンがありました。自分は妻から怒鳴られることこそありませんが、妻との会話から一コマ漫画のネタの着想を得るなんてしょっちゅう。ダリ夫婦とは格が違えど、絵描きにとっての妻の存在は、世間の想像以上に偉大かも。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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