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新幹線は豪雨の影響を避けられないのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

東海道新幹線は、台風7号の影響で、8月15日に名古屋―新大阪間で終日運休となったが、運行が全面再開される予定だった翌16日も静岡県での豪雨の影響で、多くの列車に運休や遅延が発生し、最大で9時間半遅れとなった列車も出た。


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さらに17日になっても大雨の影響が残って、一時運転見合わせと遅れが発生した。お盆と重なったため、影響を受けた乗客が非常に多かったのは事実だ。

「自然災害なのだから仕方がない」と言う人は多い。もちろん基本的にはそうだが、世の中にはどうしても移動したい人もいる。新幹線が計画運休し、高速バスも東京―大阪間を運休した8月15日、日本航空は羽田―伊丹線の臨時便を1往復運航した。天候が回復した間隙を突いたのだ。これで多くの「どうしても移動したい人」が救われた。

それと比べると、新幹線は運行の柔軟性がない。JR東海の場合、運行見合わせとなるのは4条件ある。

①時間雨量60ミリ以上、②時間雨量40ミリ以上かつ連続降雨量150ミリ以上、③連続降雨量300ミリ以上かつ10分間雨量2ミリ以上、④土壌雨量指数が一定。以上の4条件で、一つでも満たせば運休となる。8月16日は、①と②の条件を同時に満たす地点が複数存在したために運休となったという。

ただし、この基準は法律で決まっているのではなく、あくまでも鉄道会社が定めた基準だ。高速走行する新幹線は、ひとたび脱線事故を起こせば、大きな被害が発生する。だから慎重のうえにも慎重を期すという考え方はよく分かる。

人工知能の力も借りれば…

しかし、東海道新幹線の運行見合わせ基準が硬直的で厳しすぎる可能性はないだろうか。新幹線には踏み切りがなく、基本的に高架を走るから、一般の鉄道より風雨に強いはずだ。また、運行できなくなる場所は、おおよそ決まっているのだから、その手前の安全なところで待機して、風雨が弱まった瞬間に通過するとか、そもそも風雨に強い構造に改修することもできるのではないか。

新幹線のもう一つの問題は、風雨が収まった後、運行再開までに時間がかかることだ。これは、すべての列車がどこに停止しているのかを正確に把握し、そこからダイヤを組み直した後に再開するからだ。もちろん、それが大変な作業であることは事実だが、それこそ人工知能の力を借りてダイヤ編成をすることを考えれば、その分時短が可能になるはずだ。

さらに、台風のときなどはダイヤを通常に戻そうとするのではなく、全列車をこだまに変えて各駅停車で運行すれば、ダイヤ編成をやり直さなくても運行が可能になるはずだ。

ここで私が書いたようなことを、どのメディアも指摘していない。それは、「万が一、事故が発生したときに責任を取れるのか」という批判に耐えられないからだろう。ただ、私が危惧するのは新幹線に限らず、日本社会全体が「安全第一」の文化に傾いてきているということだ。それは既得権を守りたいという心情にも通じている。

高度成長期の日本には、「とりあえず行けるところまで行って、後はそのときに考えればよい」「失敗を恐れていたら、何も新しいことはできない」という向こう見ずの文化が存在していた。もちろん、無謀な挑戦はいけないが、大胆な決断も必要だ。乗客の信頼を得るためにも、経営面でもそれは重要だろう。

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