森永卓郎 (C)週刊実話Web
森永卓郎 (C)週刊実話Web

景気は回復しているのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

財務省が7月26日に全国財務局長会議を開催し、7月の経済情勢報告を示した。その席で全国の景気の総括判断を1年半ぶりに引き上げ、「緩やかに回復しつつある」とした。新型コロナの5類移行に伴って外出が増加し、消費が拡大しているというのが引き上げの大きな理由になっている。


【関連】日本経済は大破局へと向かう~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 ほか

しかし、本当に景気は上向いているのだろうか。政府が景気判断をする際に最重視するのが、景気動向指数だ。景気動向指数というのは、生産、雇用、消費など景気に敏感に反応する30の統計指標を合成して、景気全体をとらえようとする指標だ。


まず、一致指数をみると、2月の114.2から5月の114.3までほぼ横ばいが続いたあと、6月は115.2と、やや改善している。ところが、景気の先行きを示す先行指数は、5月の109.1が、6月には108.9へと低下している。景気判断を引き上げられる数字ではないのだ。


それでは賃金はどうなっているのか。賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は、6月の前年比マイナス1.6%と、15カ月連続マイナスとなっている。岸田政権の掲げる賃金と物価の好循環というシナリオは、完全に崩れたことになる。


そうしたなかで家計はどう対応しているのか。「家計調査」を見てみると、6月の消費支出は、前年同月比で名目0.5%の減少、実質4.2%の大幅減少となっている。家計は物価が上昇するなかで必死に節約をして、収支を守っているのだ。

解散総選挙直前に対策を打つか…

しかも今後、物価が落ち着く可能性は小さくなっている。全国のレギュラーガソリンの平均価格は、5月から12週連続で値上がりしており、ついに15年ぶりに1リットル当たり180円を超えた。円安の影響もあるが、最大の原因は政府が物価高対策として石油元売りに与えていた補助金を段階的に縮小しているからだ。この補助金は9月末で打ち切られる予定になっていて、10月以降のガソリン価格が200円を超える可能性も高まっている。

また電気代の補助金も、8月使用分までは1キロワット当たり7円だが、9月使用分は3.5円と半減し、10月使用分以降は廃止される予定になっている。


賃金が物価に追い付かず、実質所得が減れば、消費が失速するのは明らかだろう。さらに10月からは第3のビール増税があり、インボイス制度の導入でフリーランスや零細企業に2000億円以上の増税が課せられる。誰がどう考えても、消費や景気の拡大が期待できる状況ではないのだ。


税収が3年連続で過去最高を更新し、基礎的財政収支の赤字も20年度の80兆円から今年度予算は10兆円と、財政は劇的に改善している。このまま補正予算を組まないと、今年度の財政が黒字になる可能性も高い。


にもかかわらず、なぜか岸田政権は景気対策を打ち出さない。それは大きな謎だ。岸田総理が財務省に完全に洗脳されてしまっているか、もしかすると、解散総選挙直前に支持率回復のための景気対策を打つつもりなのかもしれない。


いずれにしても、いま日本が景気失速の危機に直面していることは間違いない。手遅れにならない時期に、減税や給付金の支給など、大型の景気対策を打つべきだ。しかし、そうした声は残念ながら政府のどこからも聞こえてこないのだ。