『キュウセン』愛媛県松山市/興居島産~日本全国☆釣り行脚
8月に入り、せっかくの夏休みでもあるので、どこか島にでも行きたいところです。夏休みはやっぱり島です(至極個人的見解)。島というだけで地続きの堤防よりも何となく釣れそうな気がしますし…。でも、このクソ暑いのに、本格的な離島で1日竿を振るというのも自堕落なオッサンには少々しんどいものかと。
そこで今回は、電車利用で駅前から乗船。航程約10分強というお手軽な離島、興居島へ行ってみることにしました。
朝の松山市・大手町駅から伊予鉄道の郊外電車に揺られることおよそ20分。終点の高浜駅の明治38年に建てられたと伝えられる、歴史を感じさせる駅舎を出ると、もう目の前が島へと渡るフェリーの桟橋です。
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興居島には由良と泊という2つの港があり、時刻表を見ると、もうすぐ由良行きフェリーの出航時間です。別にどちらに行こうと決めていたわけでもなく、漠然と「島なら釣れそう」と考えていたので、由良行きのフェリーに乗ることにしましょう。
フェリーは真ん中に車を載せる造りなので、人は端から乗り込みます。船内の長椅子に腰掛け、穏やかな湾内を15分ほどで興居島由良の桟橋に到着。くどいようですが、松山の市街地からここまで1時間とかかっておらず実にお手軽です。
今回の狙いはシロギス、それにあわよくば、そんなに大きくなくてよいのでマダイなんかも来ないかしら、と投げ竿に市販のシロギス仕掛けをセット。エサのイシゴカイをハリに掛けて適当に仕掛けを投げ入れます。ちなみに、イシゴカイは関東ではジャリメ、そしてここ愛媛では日本ゴカイという名で売られているんですね。エサの呼び方も所変わればです。
さて、80メートルほど沖にボシャンと落ちた仕掛けは程なく着底。とすぐに、カツカツッ! とアタリが出ました。すぐに合わせて巻き上げると、漁港や小磯では定番のエサ取り(外道)とも言えるホンベラ。まあ、この魚も食って食えないことはないのですが、さすがに島に来てまでベラというのもアレなのでリリース。エサを付け替えて仕掛けを投げ入れますが、またしてもホンベラ。投入のたびにアタリがあり、ひたすらホンベラ。時折、ちょっとよい引きでササノハベラと、ベラのオンパレードが続きます。
ひとしきり釣ってベラの猛攻と暑さに疲れてしまい、投げ入れた竿を堤防に立てかけ一休みです。と、立てかけた竿が勢いよく絞り込まれました。「あら、やる気がない方がいいのかしら」などとひとりごちながら巻き始めると、今までのベラ類とは明らかに違った明確で力強い手応えを感じます。型のよいキスか、あるいは食べ頃サイズのマダイか…。期待を胸に巻き上げてくると、静かな海面を滑るように近づいてきたのはキュウセン…ベラです。とはいえキュウセンは瀬戸内では美味な魚として人気もある魚ですし、型もまずまずゆえありがたく持ち帰ることとします。
ところで、松山を舞台に書かれた夏目漱石の〝坊っちゃん〟には、嫌味な上司2人に誘われて、高浜と興居島の間にある四十島周辺に船を出してタイを狙ったものの、その日釣れるのはベラばかり…という場面があります。やはり昔からこの界隈はベラの巣窟なのかもしれません。
作中で3人はベラを〝ゴルキ〟と呼んでいますが、当地での呼び方はギザメあるいはギゾです。おそらく、ギゾ→フランソワ・ギゾー(歴史家)→マクシム・ゴーリキー(当時の人気作家)→ゴルキ、というふうに夏目氏の中で作られた名前なのではないかといわれており、釣りに興味がないにもかかわらず、魚の地方名までそれらしく作ってしまうセンスには驚くばかりです。そして、そんなゴルキ、いや違った、ギゾの煮付けは上品でクセもなく、上等な晩酌の肴となったのでありました。
三橋雅彦(みつはしまさひこ) 子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。
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