森永卓郎 (C)週刊実話Web
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東京23区内新築マンションのバブル~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

不動産経済研究所が発表した今年上半期の東京23区内の新築マンションの平均価格が、前年同期比60%上昇し、1億2960万円となった。過去最高値を更新している。


高額物件が相次いで発売されたという特殊事情があったにせよ、現実は現実だ。それでも海外と比べたら、それほど割高ではないという見方もある。ただ、それは海外不動産も異常な値上がりをしているからだ。私は完全なバブルが起きていると考えている。新築マンション価格が、普通のサラリーマンでは手を出せない金額になっているからだ。


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バブルかどうかを判定するのに最もよい方法は、「常識で考えて、許容範囲の価格かどうか」ということだ。例えば、1630年代のオランダで起きた世界初のバブルである「チューリップバブル」のときは、チューリップの球根ひとつに数千万円の値段がついた。常識で考えたら、明らかにおかしいことは誰にでも分かるだろう。


それでは、東京のマンション価格はどうなのか。22年の「賃金構造基本統計調査」で20歳から60歳までの正社員の年収を積算して生涯年収を推計すると、男性の場合2億2000万円となる。税金と社会保険料で30%は取られるから、手取りは1億5400万円だ。


東京のマンションを買おうとしたら生涯手取り収入の84%を投じないと、購入することはできない。計算上は可能かもしれないが、もちろん現実には不可能だ。ローンの金利や管理費、修繕積立金、固定資産税などを支払わないといけないし、何より生活費が捻出できなくなってしまうからだ。

資金に余裕なくマンションを買うのは…

それでは夫婦共稼ぎの場合はどうか。女性の生涯年収は1億6000万円で、生涯手取り額は1億1200万円となる。夫婦合計の手取り年収は、2億6600万円となる。これだと、マンション価格は夫婦の手取り収入の49%となる。一見、生活していけそうにも見えるが、現実問題としては、これも不可能だ。手取り収入のうち住宅費用に回せる限度は、40%程度というのが常識だからだ。

結局、普通のサラリーマンが東京23区内にマンションを買うことは、不可能になってしまった。それでは、なぜ新築マンションが次々と完売していくのか。そこには明確な値上がり期待がある。郊外や地方のマンションと異なり、都区内のマンションは、値上がりしていくと多くの人が信じている。だから万が一、住宅ローンの返済に行き詰まっても、マンションを処分すれば何とかなると、考えているのだ。ただ、そうした考え自体がバブル期に共通する大衆心理なのだ。


いま住宅ローンの7割が変動金利で組まれている。もし日銀が短期金利の引き上げに動いたら、変動金利の住宅ローン返済額は大きく増える。例えば金利0.5%、35年返済で8000万円借りると、月額の返済は20万7668円だが、金利が3.5%に上がると、返済額は33万632円に跳ね上がる。実際には25%ルールがあるので、返済額は5年ごとの見直しの際に25%までしか増えないが、返済不足分はローン残高に積み上がる。


ローン返済に行き詰まる人が増えると、マンションを売却する人が増えるから、価格は急速に下落していく。 だから、「23区のマンションを買うな」とまでは言わないが、少なくとも資金に余裕のない人が買っては絶対にいけないのだ。