インタビュー “孤高の天才”お笑い芸人・板尾創路~天才的“大喜利王”と呼ばれるまで~
今や「レジェンド芸人」の一人に数えられることも多い板尾創路さんを直撃した。20代にしていきなり全国放送のゴールデン番組に呼ばれ、誰ともかぶらない独自の視点で笑いを創出。あのシュールでクールな板尾さんは、いかにして作られていったのか?
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「大喜利王」と称され、その回答には数多の芸人たちも〝天才的〟と舌を巻く。あのオリジナリティーあふれる発想はどこから来るのだろうか――。
板尾創路(以下、板尾)
「ただ長いことやってるだけですよ(笑)。大喜利に関しては、他の人はどうか分かんないですけど、その場の空気みたいなものもありますからね。それに考えててもしょうがないし、だいたい考える暇もないので、お題がパッと出たときにひらめいたことや感じたこと、たとえば自分の中にある経験を出すようにするのが一番面白いと個人的に思ってます。だからまあ、普段どう生きてるかとか、どういう風にものを見てるかとか、そういうことじゃないですかね。
一応プロなんで、伝わりやすさということを考えて瞬間的に分かりやすくする作業はしてます。でも芸人の面白さって結局のところ、本人が持ってるものをどういう風に自分が納得する形で発信するかってことにあると思います。その人の個性そのものというかね」
やはり達人らしいご回答。これは一朝一夕には到達できそうにないレベルだ。
最近は役者としても引く手あまたで、ドラマや映画、そして舞台と活躍の場を広げ続けている板尾さん。しかしその原点は、お笑い芸人である。
高校卒業後、フリーターから一念発起。漫才ブームのときに一番面白かった「紳助・竜介」の島田紳助さんの自宅に押し掛け、弟子入りを志願した。希望は叶わなかったが、そこで紳助さんから紹介されたのがNSC(吉本総合芸能学院)だった。
板尾「紳助さんに紹介されるまで、そんな学校があることすら知らなかったんです。同期生は40人ちょっといたのかな(※NSC大阪校4期。同期に今田耕司、ほんこんなど)。僕なんかなんにもできない方で、ただテレビ見てただけの素人ですから、とにかく言われるがまま、がむしゃらにやってました。同期はみんな器用で、最初からコンビで入ってきた人もいたし、ちょっと形になってる人もいて。ただ、そんな面白い人はいなかったかな(笑)。
紳助さんのようにしゃべくり漫才をしたいというわけでもなかったんですが、やっぱり漫才で自分たちを表現して評価されたかった。売れたらええな、と思いながらね」
周囲は皆、漫才ブームの洗礼を受けており、それこそ「紳竜」のような、友達同士の会話で笑いを取るようなカジュアルなスタイルの漫才が主流だったという。お笑い漬けの日々の中、板尾さんに衝撃的な出会いが訪れた。栄えあるNSC1期生で、大阪中を熱狂させつつあったダウンタウンである。
グサッと刺さったダウンタウン
板尾「最初に出会ったのは、心斎橋筋2丁目劇場(1999年閉館)をメインにコントやイベントをやられてた頃です。まだ『4時ですよーだ』(87~89年/毎日放送)が始まる前で、一般的にはそこまで認知されてませんでしたが、僕ら後輩芸人には衝撃でしたね。幼なじみで同級生だからできるのか、別に師匠がいてはるわけでもないし、独自のスタイルで、いわゆるダウンタウンの漫才っていうあの感じが、僕ら同年代にグサッと刺さったんです。決して明るい2人ではなかったし、芸人らしい雰囲気でもなかったんですけど、発想にしろボケにしろ、とにかくすごい人らがおるねんなと。
思えば、ダウンタウンの漫才はその頃から変わってないんですよ。経験を積んで段々と面白くなったりとか、徐々に実力を付けていくとかではなくて。浜田(雅功)さんなんて、当時から今の感じで、2人とも出来上がってはったという感じがします」
その後、ダウンタウンに招かれる形で上京し、伝説的番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(91~97年/フジテレビ系)にレギュラー出演を果たす板尾さんにとって、この出会いは運命的なものになった。そしてもう一つ、運命を決定付けたのが、先述した心斎橋筋2丁目劇場だった。
同劇場は先ごろ退任した吉本興業の大﨑洋前会長が、「アンチ花月、アンチ吉本」を標榜し、それまでなかった若手芸人のための劇場として86年に開館した。当初は反対意見も多かったというが、その狙いは大当たりし、ダウンタウン人気はここから全国へと拡大していった。
板尾「NSCを卒業して、具体的なビジョンもなかったんですが、とにかく早く吉本の芸人として認められたかった。ライセンスをもらえるわけでも師匠がいるわけでもないし、面白かったらまた呼んでもらえるというだけだから、NSC以上にがむしゃらでしたよ。面白いか面白くないかの世界で、一つでも笑いを取ることに必死で。当時、僕らが継続して出られる劇場なんてなかったですから、2丁目劇場は本当にありがたかった」
ほんこんさんと組んだ130Rは人気も上々で、ダウンタウンが東京に進出して以降も大阪で順調に活躍の場を広げていた。その矢先に『ごっつ』からお呼びがかかったのだ。
板尾「芸能界に入るだけでも夢物語と思ってましたが、言っても大阪はローカルなんで、テレビでもなんでも中心はやっぱり東京なんです。感覚的にも当時は今よりずいぶんと遠くて、僕らには大阪第一で東京進出なんて考えたこともなかったのに、いきなり全国放送のゴールデン番組レギュラーでしょう。もう未知すぎて。
確かにチャンスだとは思いましたが、東京はまったくのアウェーで、全然僕らのことなんて知られてない。世間の人は当然としても、局の人にすら知られてなかった(笑)。もう普通の若手ですから、レギュラーとして力を発揮しないといけないのはもちろんですが、自分のこととしても、ここで頑張らなあかんなと改めて思いました。それはみんなそうやったと思います」
板尾さんが諭した芸人とは?
始まってみれば、『ごっつ』はたちまち人気番組となり視聴率20%超を連発、全盛期は30%に迫る勢いだった。その一方で、収録現場は真剣そのものだったという。板尾「松本(人志)さんは志が高い方で、作り手として妥協しないので、コント1本にじっくり時間をかけてました。僕らは1週間のうち2~3日収録があって、午後から始めて収録が終わるのがだいたい深夜すぎ。朝方に終わることもざらでした。演者も作家もディレクター陣も全員が集まって松本さん中心に打ち合わせをするんですが、この打ち合わせが長くて『こんな大変なんや!』と思いましたけど、僕もまだ若かったんで、大阪の番組に通いながら1週間のほとんどを『ごっつ』に費やしてました。
やりたいことも表現したいこともいっぱいあったし、いつも自分を出したいと思ってました。メンバーもみんな若かったし、個性的でキャラもかぶってませんでしたね。そこは番組側の狙いだったのかもしれませんが」
メンバーの顔触れを見れば明らかなように、『ごっつ』は元をたどれば2丁目劇場から始まっている。
ダウンタウンが抜け、板尾さんらが抜けた2丁目劇場の大きな穴を埋めるべく奮戦した後輩芸人の一人が千原ジュニアさんだ。ジュニアさんは板尾さんを「人生の師匠」と呼んでいる。
「志村けんさん見てみ? あれだけのベテランでも『志村や、志村や!』って、みんなに、子供たちに呼び捨てにされて、これが芸人のあるべき姿ちゃうんか」という板尾さんの説教が、今も心に刺さっていると公言している。
板尾「彼が15~16歳の頃からの付き合いですが、今とは全然違う感じで、暗くて目付きも悪くてね。才能はあるのに、いっつも尖ってキレてるし、芸風も怖くてね。僕ら先輩にはそういうことでもなかったんですが、お笑い芸人はチンピラやないねんからと(笑)。要は彼に『怖がられても損やで』ってことを伝えたかったんです」
瞬時にして周囲を爆笑させる大喜利王は、後輩思いで空気を読む気遣いの人でもあった。
板尾創路(いたお・いつじ) 1963年、大阪府出身。高校卒業後、島田紳助に弟子入りを志願するも断られ、吉本興業のタレント養成所・NSCに入学(第4期生)。NSCでは同期の蔵野孝洋(ほんこん)とコンビを組み、87年に「蔵野・板尾」を結成(のちに130Rへ改名)。心斎橋筋2丁目劇場を中心に人気を獲得し、ダウンタウンの活躍とともに東京に進出。現在はお笑い芸人の他、俳優や映画監督としても活躍を続けている。
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