少子化500万の壁~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
先週の本稿で、児童手当のわずかな拡充で、少子化が止められるはずがないことを論じた。同じことを7月16日付の産経新聞で、客員論説委員の河合雅司氏が主張している。
2022年の「国民生活基礎調査」で児童のいる世帯の所得分布をみると、年収1000万円以上が23.9%と所得の高い層が大きな割合を占めている。年収500万円以上だと75%だ。一方、年収450万円から500万円の世帯の割合は4.6%と、途端に小さくなる。なぜそんなことが起きているのか。
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河合氏は、男性の有配偶率が20代後半でも、30代前半でも、年収600~700万円まで年収の上昇に合わせて上がることを挙げている。つまり、男性は年収が低いと、結婚できないのだ。
思い当たることがある。昨年、私の大学のゼミで、女子学生に質問をした。「年収がいくらの男性とだったら結婚してもいいと思いますか」という私の問いに全員が500万円以上と答えたのだ。もちろん、もっと高い年収を挙げた学生もいたが、大部分はこの金額だった。現実に年収500万円以上稼ぐ男性がどれだけいるのかは別にして、彼女たちの金銭感覚は正しいと思う。子供を1人、大学まで進学させようとすると、2000万円もの教育費がかかるからだ。
いま非正社員の平均年収は170万円にすぎない。だから、彼らの大部分はそもそも結婚してもらえない。仮に結婚できても、子供は作れない。これが基本的な少子化の要因なのだ。
二つの少子化対策
そうだとすると、効果のある少子化対策は二つだ。一つは、非正社員層の年収の底上げだ。日本では非正社員という身分だけで、時給が正社員の半分以下になっている。私が知る限り、そんなことをしている国は、先進国では日本だけだ。だから同一労働同一賃金を厳格に適用する、あるいは最低賃金を大幅に引き上げて、非正社員の収入を増やす。例えば、非正社員の時給を5割引き上げれば、夫婦共稼ぎで、年収500万円の壁を突破することができるのだ。不可能と思われるかもしれないが、韓国は過去6年間で49%も最低賃金を引き上げている。
もう一つの方法は、教育費の完全無償化だ。義務教育の学校給食費を無償化し、大学の入学金や授業料を無償化する。財政負担が大きすぎるというのであれば、国立大学だけでも無償化すればよい。私が大学に入学した1976年の国立大学の年間授業料は3万6000円と、無料に近い金額だった。だから、できない話ではないのだ。
そして河合氏も問題視している、もう一つの重要な視点がある。それは、奨学金の返済だ。いまの学生の多くが貸与型の奨学金を受給して学費を支払っている。ところが、社会に出てから、なかなか給料が上がらないために、奨学金の返済が生活を圧迫しているのだ。
これも返済免除に踏み切ればよい。実際に適用できるかまだ分からないが、アメリカのバイデン政権は、すでに大規模な奨学金の返済免除の政策を打ち出している。アメリカの政策には何でも追随する岸田政権は、なぜそれを踏襲しないのだろうか。
本格的な少子化対策が打たれない原因は、財務省が財源がないと渋っているからだろう。しかし、少子化対策は国債発行でやればよい。生まれた子供が将来税収を増やしてくれるからだ。
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