
東京芸術大学――凡庸な庶民は学校名だけは知っているが、何を学んでいるのかは判然としない。ぼんやりだが、著名な美術家や音楽家が、この学び舎から巣立っていったくらいのことは記憶にある。
そんな「どんな大学なのか?」という謎を、とても身近に、かつユーモアを交えて伝えてくれるのが『東京藝大仏さま研究室』(集英社文庫/680円+税)だ。
仏像の保存について研究しているゼミ、正式名称は「東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室」。
何やらトンデモなくお堅い場所に聞こえるが、そこで日々研鑽に励む、かな~り個性派の学生たちの青春ストーリーである。
日本の仏教文化を伝えてくれることに期待!
まず、仏像を当時の技術通りに模倣せよという課題が型破り。何しろ仏像といっても、国宝級のものばかりだ。「鎌倉の不動明王」やら「大日如来」やら、古(いにしえ)の仏師たちが魂を込めて彫った仏像を、現代の若者たちが造る。それが終了課程というのだから、ムチャぶりにもほどがあるだろう。
悪戦苦闘する学生たち。だが、そこは芸大生。スポ魂のように汗と涙にまみれていると思いきや、笑いあり、感動ありと、楽しそう。アーティストの卵たちは、青春を謳歌できる素敵な若者なんだなと思ってしまう。
「仏作って魂入れず」ということわざがある。今はまだ模倣するだけの彼らだが、いずれ魂を継承し、日本の仏教文化を伝えてくれることに期待を込めつつ、一読してほしい1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
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