監督/熊切和嘉
出演/菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、仁村紗和、篠原篤、吉澤健、風吹ジュン、オダギリジョー
配給/カルチュア・パブリッシャーズ
東京でほぼ引きこもり生活をする孤独な中年女性が、菊地凛子扮する主人公です。
長年断絶してきた父親の訃報を受けて、実家の青森に帰省する途中、あろうことかヒッチハイクする羽目に…という着想は確かに面白い。さらに、公募受賞作の脚本を熊切監督が改定した部分。オダギリジョー扮する幻の父親を登場させて、主人公が背負う「心の闇」を暗示するアイデアも秀逸です。
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この展開からすると、星2つでもいいんですが、あえて星1つにした理由。それは、自分がどうしても感情移入できなかったからなんです。
いくら〝コミュ障〟とはいえども、42歳はもういい大人。20年以上1人暮らしをしていたようですが、何がしか社会と接点を持って生活費を稼いでいたはずです。
それにしては、ヒッチハイクをお願いする際の状況説明が下手すぎやしないか。
「同行者とはぐれ、所持金もなく、携帯は折悪く壊れて連絡が取れないんです」と、きちっと頭を下げて事情を説明しさえすれば、ここまで話がややこしくならないはず。最寄りの交番に駆け込む手もあるでしょうに。
だから、主人公に共感する前に「いい大人が、なぜそれができない」と説教したくなってしまったんです。いくらすっぴんの美人でも、こんな風にヌーッと現れたら、普通は敬遠されますよね。
実際にヒッチハイクされて…
ただ、「明日が出棺」と言っていましたので、リミットは約24時間。初冬の寒い時期に青森の実家に着くまで道中、危険と隣合わせの中でさまざまな人と出会い、彼女は大人として会話するすべを取り戻していきます。そういう意味では、わずか1日の北上の旅で大きく成長するロードムービーとも言えます。
ヒッチハイクといえば、過去に二度ばかり「乗せた経験」があります。1回は北海道でヒッチハイク旅をしていたチェコ人の兄ちゃん。2回目は山梨の山の中で足をくじいて困っていた登山客のカップル。山梨での2人にはかなり感謝され、お礼として1000円もらった覚えがあります。そのとき、ガソリンは残っていたもののほとんど持ち合わせがなかったので、そのお金でカツ丼を食べた記憶が(笑)。今でも東京の用賀インターチェンジに入る前の一般道などで、ヒッチハイクしている人を時々見かけます。なのでヒッチハイクという行為は割に身近に感じますし、乗せる側の心境も分かる。けれどやっぱり、瞬間的に人となりを見ますね。
この主人公はこの経験を通して少しは心を開いて喋れるようになったわけですから、「東北の実家から東京にヒッチハイクで戻る帰路編」をスピンオフとして撮ってくれたら見たいですね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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