森永卓郎 (C)週刊実話Web
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異次元少子化対策とは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

岸田総理が打ち出した異次元少子化対策の最大の目玉は、児童手当の拡充だ。これまで中学生までだった児童手当を高校生まで期間延長し、第3子以降は手当の額を倍増させて月額3万円に改めた。そして、児童手当の所得制限を撤廃するのが、対策の基本構造だ。


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こうした対策で子育て世帯の家計がどれだけ潤うのか、第一生命経済研究所が推計を発表した。実質増収は、子供が1人の場合、年収300万円世帯(夫婦で年収の多い方が300万円)は約20万円、500万円世帯は約15万円、年収800万円世帯は約3万円だ。


しかもこれは年額ではない。生まれてから高校を卒業するまでの総額だ。子供1人を大学まで行かせると2000万円の教育費が必要といわれるなか、こんな微々たる額で子供を持とうと思う人は皆無だろう。


ちなみに、年収800万円の場合、なぜ3万円と恩恵が極端に少ないのかと言えば、高校生にも児童手当を給付することと引き換えに、その間の扶養控除を廃止することになっているからだ。


一方、子供が3人の場合は、年収300万円世帯で約350万円、年収500万円世帯で約337万円、年収800万円世帯で約301万円と、それなりの恩恵がある。もちろん子供3人分だから1人当たりには100万円強にすぎない。しかも、ここには罠が潜んでいる。月額3万円の児童手当をもらえるのは第3子だけだが、高校を卒業した子供は、子供とはみなさないというルールになっている。


つまり、第1子が高校を卒業すると、第3子は第2子とみなされるため、3万円の児童手当をもらうことができなくなるのだ。このルールの下では、高校生になっても3万円の児童手当をもらえるのは、ほぼ三つ子の場合だけということになる。異次元の少子化対策どころか、異次元の〝しぶちん政策〟だ。

メリットは高所得者だけ!?

こんな小さなことをするために、異次元少子化対策の予算規模を年間3兆5000億円とし、財源は医療保険料の引き上げや社会保障カットを予定している。

しかし、もっと役に立つ子育て支援策はたくさんある。例えば、学校給食費の無償化に必要な財源は5000億円、国立大学の無償化は、3000億円もあれば可能だ。なぜ政府は、そうした政策を採らないのか。


実は、今回の児童手当拡充で大きなメリットを得る層がある。それは高所得層だ。例えば、年収1100万円世帯では、子供1人で約114万円、子供が3人だと約691万円の手取り増となる。児童手当の所得制限が撤廃され、これまで受け取ることができなかった児童手当を受給できるようになるからだ。


実は、年収1000万円を超えるサラリーマンは、国税庁統計によると全体の7%しかいない。そうした層だけをターゲットにして子育て支援をしても、大きな効果がないのは明らかだろう。それでは、なぜそんな政策が採用されたのか。


証拠があるわけではないが、霞が関で働くキャリア官僚は、40代で課長になると、年収が1200万円程度になる。30代の課長補佐でも1000万円近い年収を得ている。


異次元少子化対策で最も大きなメリットを得るのは、政策立案者である彼らなのだ。それでも、彼らが今回の少子化対策を機に3人目、4人目の子供を作ってくれるなら救われるが、いまのところそんな気配はまったくないのだ。