岡山県は足守川にてカワムツと戯れた前回。本当はカマツカやムギツクを釣りたかっただけに、やや不完全燃焼ではありましたが、一応は夏の里川の釣りを楽しめたこともあり、納竿。歴史を感じさせる足守の町並み散策などを楽しみつつ、帰りがけに足守駅の脇を通ると、なにやら旨そうな〝たこ焼き屋さん〟が目に入りました。小腹も空いていることだし、後でチョイと寄ることにして、ついでにすぐ目の前を流れる足守川もチョイとのぞいてみることにしましょう。

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川の畔へ下りると、吉備線鉄橋のすぐ下が大きな堰堤になっております。今日はもう釣りはしないつもりでいましたが、こういったよさげな雰囲気を目にすると、ついムラッときてしまうものです。堰堤の落ち込みには大きなコイが数尾、ゆったりと泳いでおります。もちろんコイを釣る気など全くなく、その姿をなんとはなしに見るうちに…ん？　数尾いるコイのうち、やや小振りな1尾だけ明らかにシルエットが違うような…。よーく見ると1尾だけナマズが交じっております。ナマズがいるのか…。

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釣りはやらないつもりでしたが、クネクネと泳ぐナマズの姿を見るうちに、不完全燃焼だった釣り欲がムラムラと頭をもたげ、ちょっとだけやってみることにします。道具を抱えて河原に戻ると、もうナマズの姿はありませんでしたが、1尾いたということは何尾かいるでしょう。安物のコンパクト竿2本に、オモリと糸とハリという簡単なブッ込み仕掛けを結び、先ほどの釣りで余ったエサのミミズをたっぷりと付けます。

ローカル堪能まさかのヒット

ポイントは堰堤下流れ込みの深みと、正面、川の流れ中心部に顔を出す沈みブロックの周辺。この2カ所に仕掛けを投げ入れてアタリを待ちます。待つ間、せっかくなので先ほど見かけたたこ焼き屋さんに行ってたこ焼きを購入。釣り場に戻り、たこ焼きをつまみつつ竿先を眺めることにしましょう。

フワフワでトロトロ、しっとりと柔らかいたこ焼きは思いのほか美味。時折、ガタンガタンと鉄橋を通過するローカル線はなんとものどかで、アタリを待つ時間も飽きることはありません。釣り自体ももちろん楽しいものですが、旅先ではこういった地場のローカルな日常との出会いがまた、実に思い出深いひとコマになるものです。

しばらく待っても依然としてアタリはなく、「やっぱり夜じゃないと厳しいかなぁ」と仕掛けを巻き上げると、エサはそのまま残っております。伸びきったミミズをハリから外し、新しいエサに付け替えて再び仕掛けを投入。オモリの着底を感じ取って竿を竿掛けに置こうとしたそのとき、グンッ！　と引かれたような感覚が伝わりました。

半信半疑で置きかけた竿を再び手にすると、続いてグ〜ンッと竿先が大きく引き込まれます。投入直後に何かが食ったようです。ひと呼吸置いてからしっかり合わせると、ズンッと重みが伝わりハリ掛かり。力強い抵抗が始まりました。

先ほど目にしたナマズにしては力が強く、ひょっとしたらコイかも？　などと強引に寄せにかかりますが、激しく力強い抵抗で、なかなか寄りません。念のため糸を切られぬよう、巻いては出してを繰り返しつつ、ようやく足元近くに見えたのは、コイでなく型のよいナマズです。

脂は薄めでも旨い蒲焼き

足元に寄せたまではよかったのですが、チョイとやってみようなどと軽い気持ちで竿を出したこともあり、玉網は車の中です。とはいえ、安物竿でこの大きさのナマズを抜き上げるのは間違いなく無理。仕方なく注意しながら護岸の土手を水際まで下ります。頭のタオルを脱いで手に巻き付け、ナマズの大きな口に親指を入れて確保となりました。ナマズの歯は粗いので、素手ではケガをすることがありますので…。

ということで、無事釣り上げたのは50センチほどと、まずまずのナマズです。日中ということもあり、半ばダメ元で狙ってみただけに嬉しい1尾で、不完全燃焼だった釣り欲も満たされたことから、これで本当に竿を納めて帰路に就くことにしました。

帰宅後、蒲焼きで晩酌を楽しむべく、ナマズをさばいてみると、思いのほか脂っ気がなく赤味の強い身色です。焼き上がって箸を付けると、やはり脂は薄いものの、鳥の胸肉のようで臭みはなく、風味はしっかりあって美味です。甘い香りの〝独歩ビール　ピルスナー〟との相性もよく、結構なボリュームの蒲焼きも程なく完食。丑の日を前にウナギならぬナマズの蒲焼きで、精が付いたような気もするのでありました。

三橋雅彦（みつはしまさひこ） 子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。