アメリカ連邦最高裁判所は6月29日に、ハーバード大学とノースカロライナ大学が人種を考慮した入学選考をしていることについて、「法の下の平等な保護に反する」との判決を下した。
入試判定で黒人やヒスパニック(スペイン語を話すメキシコなどのラテンアメリカ系)の採点に下駄をはかせる行為は、憲法違反だと判断したことになる。
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アメリカでは、かなり前から差別是正のため、特定の少数者を優遇する措置を「アファーマティブ・アクション」と呼んで、実行してきた。この措置のおかげで、一流大学に黒人やヒスパニックが入学できるようになり、アメリカの政財界に多様性がもたらされたことは事実だ。しかし、今回の裁判は、「アファーマティブ・アクションが白人やアジア系の入学機会を不当に奪っている」という訴えから始まっていて、その主張には、一理あるのだ。
本来、大学入試は実力で合否が決まるべきだ。しかし、そんなことを言っていたら、いつまで経っても黒人やヒスパニックが一流大学に入れないので、一種のショック療法として、アファーマティブ・アクションが作られた。
ただ、アメリカの一流大学は、年間の授業料が1000万円近いところも多い。そのため、アファーマティブ・アクションのせいで、結果的に黒人やヒスパニックの富裕層の子弟が入学しやすいという、おかしなことが起きている。それでは本当の多様性確保にはつながらない。
私は、アファーマティブ・アクションより優先させるべきは、教育の無償化だと考えている。大学教育が無償であれば、低所得層の子弟にも大学進学のチャンスが大きく拡大するからだ。現に、社会民主主義をとってきたヨーロッパ諸国では、公立大学が無償である国が多い。
日本では企業を中心に…
ところが、トランプ前大統領が選任した保守派が多数を占める連邦最高裁は、入試に関して「法の下の平等」を主張しながら、6月30日、バイデン政権が昨年8月に発表した連邦政府の大学学費ローンの返済一部免除策について「行政権を逸脱している」として「無効」との判断を示した。結局、アメリカの保守派は、「弱者の優遇は、まかりならない」という思想をむき出しにしているだけなのだ。
ただ、大学入試のアファーマティブ・アクションに違憲判決が出されたということは、相当精緻な制度設計をしないと、この特定少数者の優遇措置が破綻する可能性が高いということは、明らかだ。
その点は、日本も注意が必要だ。岸田政権が6月13日に決定した「女性版骨太の方針2023」では、東証プライムに上場する企業に対して、2030年までに女性役員の比率を30%以上に引き上げる方針を示している。これも一種のアファーマティブ・アクションなのだが、こうした方針に対してすでにおかしな現象が起きている。
それは、企業が元アスリートや元アナウンサー、元タレントの女性らを次々に社外取締役に登用し始めていることだ。そうすることで女性役員の比率が上がるし、社外取締役に素人を据えれば、経営に口出しをされずに済むという魂胆が透けて見える。
人種とか、性別とか、そんなことが一切意識されず、実力が評価される時代はまだまだ遠い。それまでは、アファーマティブ・アクションと、それをすり抜ける守旧派のいたちごっこが、続いていくのかもしれない。
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