空港保安検査改革の方向性とは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
国土交通省の保安検査に関する有識者会議が、空港の保安検査改革の方向性を打ち出した。再来年度から新しい体制に移行するという。具体的には、①保安検査の実施主体を現在の航空会社から国などの空港管理者に移す、②検査の費用を旅客にも求めるという2点が改革のポイントだ。
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現在、空港の保安検査は、航空会社が民間の警備会社に委託して行っている。ただ現行方式では、航空会社によって保安検査のレベルが統一されず、また航空会社は民間企業だから、保安検査の強化とコスト削減の二律背反に直面してしまうというのが有識者会議の主張だ。
しかし少なくとも利用者の立場から見る限り、国内で、いい加減な保安検査をしている航空会社は見つからない。また、手抜きの検査の結果、危険物が機内に持ち込まれたり、ハイジャックが発生したという事例は、最近ではないはずだ。むしろ検査が厳格すぎて、保安検査場の前に大行列ができているのが実態だろう。
また、そもそも保安検査を厳格化したいのなら、それに合わせた検査基準を作ればよいだけの話で、検査の実施主体の問題ではない。にもかかわらず、なぜ国土交通省は、検査の主体を変更しようとしているのか。
最大の理由は、天下り先の確保だと私は考えている。そもそも、空港は天下りの温床だ。最近も元国土交通事務次官が、民間企業『空港施設』の天下り人事に介入したことが大きな問題になった。保安検査を空港管理者に移して、新たな業務を開始すれば、そこに天下りのチャンスが生まれるからだ。
国民にはデメリットしかない…
空港管理者が民間企業のところは、成田、中部、関西、伊丹の4つだけで、国が管理するのが新千歳や羽田など19空港、地方が管理する空港が59もあり、天下りのチャンスは大きく膨らむ。そしてもう一つ国土交通省が画策するのが、財源の確保だ。国土交通省は、検査主体の見直しに併せ、「充実・安定した財源確保に向け、直接的な受益者である旅客からの透明性を確保した形での負担とともに、関係者(国、航空会社等)の一定の負担からなる仕組みを構築する」としている。
要は、これまで航空会社が負担していた保安検査の費用を利用者にも求めるというわけだ。おそらく、航空運賃とは別に「保安検査料」といった形で利用客の負担を求めていくのだろう。保安検査料は税金ではないので、国民負担率には含まれないが、強制徴収される点で税金と一緒だ。結局、航空機を利用する国民は、負担増を強いられたうえに、保安検査でますます時間を奪われるようになる。
1980年に30%だった国民負担率(租税+社会保障)は、昨年度48%まで上昇したが、それはこうした細かい負担増を積み重ねてきた結果だ。
問題はメディアだ。かつては、官僚の利権拡大を許さないという姿勢から、一つ一つの政策をチェックして、国民負担の増加につながる施策を批判してきた。今回の「保安検査の強化」は、「安全」を人質に取っているため、批判しにくいのかもしれない。
それにしても国土交通省が国民にとってほとんどメリットがないどころか、デメリットのほうが大きい施策を打ち出したというのに、そのこと自体ほとんど報道しないというのは、なぜなのだろうか。
このままいったら、官僚だけが太る社会になってしまうだろう。
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