監督・脚本/アリス・ディオップ
出演/カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、ロベール・カンタレラほか
配給/トランスフォーマー
ベネチア映画祭銀獅子賞・新人監督賞受賞の他、各映画関係者から激賞されている本作。自分はというと、限りなく星1つに近い2つに評価しました。というのも、「壁」を感じてしまったんです。
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本作は、立場によって「分かる」と「分からない」、「入り込める」と「入り込めない」の間に大きな壁があるんじゃないかと。
本作は、フランスに住む黒人女性が幼い娘を夜の海岸に放置して殺害した事件の裁判を、同じく黒人の女性作家の主人公が傍聴する話。奇しくも、主人公も妊娠中です。
今どき性別を言うのはヤボなのですが、自分は野郎でもあるし、たとえ女性でも子供を宿した経験のあるかなしかで、感受できる深度に違いがあるのでは。
この監督がテーマにしている「母と娘の葛藤」「妊娠中の不安」「身二つに分かれてからの戸惑い」を、ちゃんと自分ごとにできているかというと甚だ心もとないわけです。
ただ、本作が法廷モノとして異色なのは、裁判記録そのままをセリフに使い、撮影も時系列で行うドキュメンタリー的手法を取っていることです。
俳優はもちろん、見ている我々も、実際の裁判を追体験していることになります。その発想は新鮮で、とても面白いと思いました。
見どころは法廷シーン
ただ、自分は妻と話し合って「子供は持たない」という人生を選んだこともあり、お前に女性の内的葛藤を理解できるのかと、どうしても自問してしまいます。
なので本作は、一人で見に行くのではなく、できることなら子育て経験のある、古女房あたりと見に行っていただきたい。
今でこそ子育てを楽しむイクメンがもてはやされていますが、実話の読者は妻に任せっきりの世代に違いない。
本作を見終わったあと、「分かる&分からない」を検証し合うのはいかがでしょう。夫としては、別の「法廷」に立っている気分になるかもしれませんが(汗)。
さて、もう一つの見所は、法廷シーン。日本の裁判官は弁護人や検察官の尋問の間に補充的に質問するだけですが、フランスでは裁判官が被告人や証人に自ら主導して質問していました。
裁判を進める役目もあるようで、より高い見識が求められると感じていたら、気づけば3人の裁判官も2人の弁護士もすべて女性。ちょうど「女性の社会進出」の日本のさらなる遅れがニュースになっているときでしたので日仏の違いが鮮明になっていると感じました。
そうそう、最終弁論で被告の心情をきっちり整理してくれますのでご安心を。「分からん」とモヤった人は弁護士に期待してください。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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