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泉谷しげるインタビュー「丸くなれるもんだったら、なりたいよ。でもなれないよね」

泉谷しげる
泉谷しげる(C)週刊実話Web

『断捨離パラダイス』
監督・脚本・編集◎萱野孝幸
出演◎篠田諒、北山雅康、泉谷しげる、他
6月30日(金)より全国公開

ごみ屋敷を舞台に、「捨てられない」人たちの生態をリアルかつコミカルに描いた映画『断捨離パラダイス』が公開される。ごみ屋敷の主として出演するのが、個性派俳優としても知られる泉谷しげるさんだ。今回の作品の見どころ、さらにはアーティストとしての矜持までお聞きした。

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――俳優として、これまでいろんな役を演じてこられた泉谷しげるさん、今回ご出演される『断捨離パラダイス』では、なんと〝ゴミ屋敷の主〟です。作品のキャッチコピー通り、〝ゴミ映画〟なのでしょうか。

泉谷しげる(以下、泉谷)「そうですね。ゴミそのものを撮ってるというよりは、おそらく〝人間のゴミ観〟を撮りたいんじゃないかな、監督は」

――人間のゴミ観ですか?

泉谷「ゴミそのものというよりは、人間が作り出す、その人なりのゴミ観だね」

――つまり、ゴミに〝その人らしさ〟が表れているという意味でしょうか?

泉谷「そう。まあ、身勝手だからな、人っていうのは。ゴミを散らかしたって誰かが片付けるだろうと思ってるわけだし、あるいは理屈をつけて、『これは資源だ』『財産だ』って言ってるんだけど、管理はできねえのよ。人のせいにしてるというか、自分事として捉えていないというか…単なる癇癪持ちだよね」

――泉谷さんが演じるゴミ屋敷の主は、まさにそういった人物ですね。泉谷さんの他にも、4人のゴミ屋敷の主が作品に出てきます。確かに、それぞれの人生観がゴミに表れているなと感じました。

泉谷「人の風景としてゴミを描いてるんじゃないかなと思うんだよ。ゴミを通じて、人の風景をささやかに描いてますね」

――撮影にまつわる思い出などはございますか? ここが大変だったな、とか。

泉谷「監督はかなり粘って、何度も何度も撮り直ししてたね。俺の機嫌の悪さを引き出そうとしてたのかもしれないけどさ」

音楽活動以外はバイト

――ゴミ屋敷の主らしく、不機嫌で頑固な感じがよく出ていたと思います。

泉谷「映画っていうのは、自分のパートだけが良けりゃいいってもんじゃないんだよね。頭からケツまで、ストーリーも脇役も全部良くないといけない。いろんなキャラクターに対して、俳優をどうやって活かすかって考えなくちゃいけないからね」

――試写を見た私としては、ゴミから見えてくるその人らしさとともに、ゴミの持つ意味や価値を考えさせられました。

泉谷「それはそうだけど、そんなものは分かるじゃない。ゴミ観というか、好き放題やってゴミを散らかして、そのゴミを大事にするといって他人を巻き込んで迷惑をかける…という人間のゴミさ加減っていうものを、ささやかに描くのもいいけど、面白おかしくやるってのもアリだったよな」

――もし泉谷さんが監督なら、そのように撮りますか?

泉谷「やりませんね(笑)。映画作る気にはならないしね。それならライブやった方がいい。放出するだけのライブを。いいライブやれたな、いい映画見たなっていう原始的な感動を一番求めてるんですよ、俺は」

――監督からは、どういったディレクションがあったんでしょうか。こんなふうに演じてほしいとか。

泉谷「うーん、俺はなんでもあんまり考えないでやりますからね。だから、監督の作家性も、その人の意図するものも聞かないし。ハッキリこう言っては悪いんですけど、自分は、音楽活動以外はバイトですから」

――バイトですか?

泉谷「それくらい距離を持ってた方がいいと思うんですよ。というのはね、映画でもドラマでも、台本読み込んでさ、作家以上にこだわって演じることに夢中になっちゃってると、制作者側がめんどくさいよ。このシーンはどうだっていちいち討論してよ、撮影止めてよ、本当にバカバカしいよ」

――そういうものですか。

泉谷「もちろん、みんな台本を読み込んだり、楽屋から出てもらって役作りしたりするけど、俺にとってはバカバカしい。自分の中ではあり得ないですよ。映画の一部なんだから。一部に徹しないといけないと思うんですね」

「こんなもんでいいのかコラ!」

――〝俳優は映画の一部〟ということですか。しかし、泉谷さんの出演作は、どれも存在感がすごいですけどね。

泉谷「それは、カメラマンが俺のこのキャラが好きなんで、良く撮ってくれるんですよ(笑)」

――なるほど(笑)。

泉谷「愛情を感じるんですよ、みんなの。もう嬉しいなと思うんですね。だから、それに応えようとはもちろん思いますよ。それに応えるのは何かっていうと、余計な揉め事を作らないこと。とにかく監督に余計なアイデアを出さないこと。俺は現場でははっきり『NGは監督のせい。OKは役者のせい』っていうスタンスですからね。仲良くなりませんもんね、監督とは(笑)」

――監督には媚びないということですか?

泉谷「媚びない。媚びる気もないし、喧嘩する気もないですよ。ちゃんと客観的な視点で作業をして、みんなを活かすようにしてくださいっていうことですね」

――泉谷さんはもっとグイグイ前に出るスタイルかと思っていました。

泉谷「俺は、カメラマンが嬉しそうな顔してるから、『お、俺のこと好きなんだろうな。じゃあ応えなきゃな』って(笑)」

――きっと撮りがいがあるんですね、泉谷さんは。

泉谷「ありがたいことにね。だから頑張りますよ。やっぱり、求められてる以上に返すのがアーティストの役目ですよ。だから、期待の範疇にいては化け物にはなれませんからね」

――うーん、まさに泉谷さんの美学!

泉谷「だって、みんなそういう化け物にお金払ってんでしょ。化け物だったら、やっぱり自分の能力をもっともっと疑わないと。『こんなもんでいいのか?』とね。だから監督には頑張ってほしいですね、今後」

――厳しいですよね…。

泉谷「そうだよ。自分をもっと疑ってくれないと。自分で自分のファンになってさ…俺なんか自分は自分のファンなんだからこそ、厳しいですよ。『こんなもんでいいのかコラ!』っていっつも怒ってますよ、自分に対して。本当に化け物になるには、ものすごく厳しくしないと」

プレゼントはもういらない

――長年、化け物であり続ける泉谷さんの言葉だけに説得力が半端ないです!

泉谷「丸くなるっていうことは、俺、考えられないような気がするんだよ。丸くなれるもんだったら、なりたいよ。でもなれないよね、こんな世の中でさ」

――そんな泉谷さんがオススメする『断捨離パラダイス』の見どころはなんでしょう?

泉谷「ゴミの量ですよ。あれ、半端じゃないんだから」

――確かに! 各エピソードで大量のゴミが出てきますが、泉谷さんのロケが一番のゴミ量でした。

泉谷「あれは本当にすごかった。腐ってはいないんですけど、本物のゴミなんです。何よりもそこにびっくりして、物資や資源がこんなに無駄にされてるんだってことは感じていただきたいですね。あれは感動した。よくぞ作ったなと」

――他人から見ればゴミ、でも本人にとっては財産。それを断捨離するというのも映画の要点です。ところで泉谷さん、断捨離はされていますか?

泉谷「もうそろそろしないとダメですね」

――ご予定はあるんですか?

泉谷「ありますよ、もちろん。自分も、なんでもかんでも買ってきたものとか、もらったものは大事に取っておくタイプですからね。でも、そんなことしてる状況じゃないなと。日本人はものを持ちすぎだよね、いらねえよ」

――断捨離以前に、必要以上に物を所有しないようにするのが先ですね。

泉谷「最近、75歳の誕生日だったけど、みんなに連絡して『とにかくプレゼントはくれるな』と言いましたよ。もういらない。もうやめて。一切、気にかけないでって。これから片付けなきゃいけないんで、増やしてどうすんだと」

――うーん、これは断捨離に苦労しそうですね(笑)。

泉谷「皆さんに気を遣っていただけるからね、ほんとに。『化け物にプレゼントはいらないんだよ』って言ってんだけどね(笑)」

(文・牛島フミロウ/企画・撮影・丸山剛史)

泉谷しげる
1948年、青森県出身。高校を中退しいろいろな職に就いていたが、1971年にフォークシンガーとしてデビュー。77年に作家の向田邦子からオファーがあったことをきっかけに俳優業も開始。その後もミュージシャン、俳優、バラエティー番組への出演など、各方面で強烈な存在感を発揮し続けている。

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