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蝶野正洋『黒の履歴書』~スポーツにおけるルールとパフォーマンス

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

エンゼルスの大谷翔平選手の活躍のおかげか、世界で行われているスポーツが、日本のメディアで取り上げられることが増えたような気がする。同じ競技でも、国や大会によって細かいルールが違っていたりして興味深い。

そういった意味でも、ルールの壁を感じたのがテニスの全仏オープン女子ダブルス3回戦で起こったアクシデントだね。


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加藤未唯選手が意図せずに打った球が、コートの近くにいたボールガールに当たってしまい、加藤選手が失格処分になってしまった。さらに、加藤選手に対してランキングポイントと賞金も剥奪されるという厳しい処分が下された。

確かに、大会のルールに基づいているのであれば、失格になっても仕方がないという部分はある。どれだけ実力があっても、試合に1分でも遅刻したらダメとか、プレーに直接関係ない部分でも守るべきルールというのは、どんなスポーツにもあるからね。

例えば、ボクシングでも体重制限があって、100グラムでもオーバーしたら試合ができない。そのあたりが曖昧だったのは、昔のプロレス界くらいだよ。

新日本プロレスは100キロ以上はヘビー級、それ以下はジュニアヘビー級と階級が分かれている。でも「トップ・オブ・ザ・スーパージュニア」というジュニア選手だけの大会にエントリーしていたヒロ斎藤さんは、明らかにヘビー級だった。本人にこっそり聞いたら「プロレスラーになって一度も100キロを切ったことはない」と言っていたからね。

シラけるパフォーマンスになる場合も

公開計量時は、体重計に一瞬だけパッと乗って、針が触れてるうちに下りて誤魔化したそうだ。これがいまの格闘技界だったら、大問題になっているだろうね。

ルールは厳密にするべきだけど、今回のテニスの件で物議を醸したのが、アクシデントの直後に審判に強く抗議して失格を促した相手チームの態度だよ。

彼女たちにしてみたら、ルールに則っているし、対戦相手を失格にできるチャンスを最大限に活かしたというくらいの感覚なのかもしれない。

でも、これはサッカーでよくある、クロスプレーのときに大げさに転がって、審判にアピールして反則を取ろうとする行為と同じことだよね。

俺は、ああいうパフォーマンスは好きじゃない。テクニックの一つなのかもしれないけど、行き過ぎるとシラけてしまうし、競技性が薄まってしまう。

嘘をついてでも有利になればいいという考え方は、その選手が生まれ育った国の文化なのかもしれない。

貧しい人が、裕福な人から分けてもらうのは当たり前だという考えの国もあるからね。だから、自分たちよりも強くて金持ちのチームに対しては、多少のズルをしてもいいと思っている。

ただ、それは民族の文化的なことであって、それをスポーツに持ち込んだらダメなんだよ。そういった国や個人の考え方の偏りをなくすためにも、ルールというものがある。スポーツは、それぞれの国の文化を肯定しつつも、公平でなくてはいけない。

そのスポーツにとって何が大事で、何を競わせたいのか。その原点に基づいて、今後は時代に合わせたルールづくりをしていってもらいたいね。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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