岸田文雄 (C)週刊実話Web 
岸田文雄 (C)週刊実話Web 

解散権をもてあそんだ代償!? 岸田首相が懸念する公明党の裏切りと菅前首相の不穏な動き

6月の衆院解散は見送られたが、重要法案はすべて成立し、結果的に岸田文雄首相の狙い通りとなった。しかし今回、解散権をもてあそんだ代償は大きく、内閣支持率は急落。党内での求心力低下も指摘されており、首相が目指す長期政権に向け雲行きは怪しい。


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「この前も考え方を説明しましたが、先送りできない課題に答えを出していくのが岸田政権の使命です。立憲民主党が内閣不信任決議案を出せば、即刻否決するよう茂木敏充幹事長に指示しました」


岸田文雄首相は6月15日夕、公明党の山口那津男代表に衆院解散を見送る考えを伝えた。その約40分後、官邸で記者団に見送りを表明した。


多くのメディアは見送りの理由を三つ挙げた。一つは、首相の長男・翔太郎氏による首相公邸での忘年会写真の流出で、上昇傾向にあった内閣支持率が大きく下落したことだ。


自公の亀裂拡大が二つ目。衆院定数「10増10減」に伴い、東京の新しい2小選挙区に独自候補を立てたい公明党と、これを拒否する自民党東京都連との対立が発端だが、公明党側が東京では選挙協力を一切しないと通告したことで、自民党全体に動揺が広がった。


三つ目は自民党が6月上旬に行った情勢調査で、現有262議席を大きく減らす結果が出たことだ。党関係者によると20以上の減少だったという。30減で単独過半数を割るため、場合によっては首相退陣に直結する。


これらの理由に加え、麻生太郎副総裁や茂木氏らが慎重論を強く唱えたため、首相は「今はタイミングではない」と解散を見送ったというのが、多くのメディアの解説だった。


だが、実情はだいぶ違う。カギは、冒頭の首相と山口氏のやりとりで出た「この前も」という言葉にある。「この前」とは、首相が山口氏と会食した5月30日昼を指す。ここでは当然のことながら、自公間の亀裂問題が話題になった。


内情に詳しい政府関係者が語る。


「公明党は4月の統一地方選から間がないことから、実際は早期解散に反対で、わざとこじらせているのは明らかだった。そこで首相は『自公連立は大事で、引き続き堅持していく』と山口氏に伝えた。要は、解散はしないと2人で確認したわけだ」


そもそもこの時点で、自民党内に解散に向けた雰囲気はほぼなかったようだ。解散する場合は、候補者に手渡す公認証書や為書きの準備で、半月前から多忙になる。だが、そうした動きも皆無だった。


首相側近の木原誠二官房副長官は、当選同期など複数の親しい議員に「解散はありませんから」と連絡していたという。

解散は来年の秋か…

ただ、G7広島サミット後に内閣支持率が急上昇し、首相が解散を意識したのは事実で、実際、5月26日昼に麻生、茂木両氏と都内の中華料理店で会食した際に、「俺はいつ解散してもいいと思っている」と高揚する心中を明かしていた。


だが、2人は「任期の半分にも来ていない」などと反対。一方で、今通常国会の最重要法案の一つ、防衛費増額の財源を確保するための特別措置法案を6月21日の会期末までに成立させるには、解散を匂わすほうがいいとの認識で一致した。


選挙準備が進まず解散を警戒する立憲が、採決に応じざるを得なくなるとの判断で、そこから「解散はある」との発信を本格化させたという。


実際、立憲が6月15日に不信任案を提出したのは、参院本会議で法案採決に応じ、特措法が成立してからだった。首相は麻生氏らに「シナリオ通りになった」と、ほくそ笑んだという。


一連の動きを振り返ると「首相は一時『解散してもいいか』との思いが頭をよぎった程度で、当初から今国会で解散するつもりはなかった」(前出・政府関係者)というのが真相に近い。


それではこの先、首相は政権運営と解散戦略をどのように考えているのだろうか。永田町では9月にも臨時国会を召集し、冒頭で解散するシナリオが有力視される。だが、首相に近い自民党岸田派(宏池会)幹部は、この見方を否定する。


「首相は常に『重要課題に取り組んでいくことが岸田政権の使命だ』と言っている。だから次は、態勢を強化して実績を上げるための人事だ。落ち着いて政策に取り組める『黄金の1年』が始まるわけだから、解散は来年秋の自民党総裁選後でもいい」


確かに、持続的な賃上げ実現や少子化対策の推進、防衛力の大幅増強など、政権としての重要課題は山積みとなっている。ロシアによるウクライナ侵攻など、複雑化する国際情勢への対応も待ったなしだ。


一つ一つ結果を出していくことも難しいような難題ばかりだが、岸田首相は強気だという。その根拠は何なのか。


一つは経済情勢についての現状認識だ。日本経済はようやく回復基調に入り、日経平均株価は3万3000円台とバブル崩壊後の最高値圏を推移している。


G7広島サミットを議長として成功裏に導いたことも、首相の強気を支えている根拠。そして、もう一つが「首相の有力な後継候補がいない」ことだ。


経済情勢で言えば、2023年の国内総生産(GDP)の名目成長率は8%台の大幅成長が予想され、税収も前年比4〜5兆円の上振れが見込まれる。この状況なら来年度の大幅賃上げに加え、防衛力増強や少子化対策に向けて当面の財源確保が可能だ。


何よりも、こうしたマクロ状況の好転で、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の25年度黒字化の目標達成も視野に入ってきたという。PB黒字化は、財政再建が緒に就くことを意味する。デフレ脱却の道筋が見えてくれば、円や国債の信認が高まり、日本経済に追い風が吹く。


G7議長としても見せ場が続く。夏場のウクライナ和平会議を皮切りに、9月はインドで主要20カ国(G20)首脳会議が、11月には米国でアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が控える。首相は「これからが正念場だ」と、今から意気込んでいるという。


そこで焦点となるのが、内政や外交を推進するための内閣改造と、自民党の役員人事だ。首相は早ければ8月初旬にも人事を断行する構えで、基本方針は「ポスト岸田候補の封じ込め」になる。

萩生田政調会長は更迭か

首相はポスト岸田への意欲を隠さない茂木氏と、自公対立の要因をつくった萩生田光一政調会長に不快感を抱いており、幹事長昇格の目もあった萩生田氏を含めて2人を交代させたい意向という。


「幹事長は、茂木派の小渕優子党組織運動本部長か、選挙対策を進めた森山裕党選対委員長が有力だろう。政調会長は、安倍派で萩生田氏とライバル関係にある西村康稔経済産業相が考えられる。茂木氏は財務相など重要閣僚として閣内に取り込む一方、もう1人のポスト岸田候補である河野太郎デジタル相は、一連のマイナンバーカード不祥事の後始末のために続投させるのではないか」(前出・政府関係者)


首相としては岸田、麻生、茂木の主流3派に、安倍派を加えた政権の骨格は維持したいところ。できる限り党総裁選に無投票再選できる布陣を整え、27年秋が任期となる2期6年もの長期政権を見据えているのは間違いない。


だが、政局が首相の思惑通りに進む保証はない。首相に吹いていた順風が、すでに逆風に変わり始めているからだ。


長男の翔太郎氏が首相公邸で忘年会の記念写真を撮っていた問題や、自公間の亀裂の深まり、マイナンバーカードをめぐる問題などにより、サミット効果で50%前後にまで戻した内閣支持率が急降下。特に毎日新聞は45%から33%へと12ポイントもダウンした。


衆院解散について「情勢を見極めたい」と発言し、首相自ら「解散風」を吹かせた代償も大きい。「解散権をもてあそんだ」(立憲民主党の泉健太代表)などと与野党から批判を浴びただけでなく、国民が首相に向ける視線にも厳しさが増した。


自民党内では、首相が人事で女性を登用するなどして政権の浮揚を図り、秋の解散を模索すると見る向きが多かった。だが、一連の失態続きと支持率急落で、「秋解散は厳しくなった」(ベテラン議員)との情勢に変わってきている。


前出の岸田派幹部が言うように「首相が当面の解散を考えていない」としても、解散できないと思われることが求心力の低下につながり、党内においてさまざまな動きを引き起こすのが政治の常だ。


首相の強気の源泉である経済見通しも、米経済が利上げに次ぐ利上げで失速すれば、一転、雲行きは怪しくなる。この間、立憲や日本維新の会が候補者を擁立して選挙準備を進めてくることも、首相の解散戦略にとっては不安要素となる。

菅首相が「岸田おろし」

公明党の動きも気がかりだ。維新は次期衆院選に向けて、公明が議席を持つ大阪、兵庫の計6小選挙区にも原則候補者を立てる方針で、公明が議席を死守すべく維新と水面下で接触を続けているのは、周知の事実である。


「裏に菅さんがいるんじゃないか」


6月16日昼、岸田首相は都内の日本料理店で会食した麻生氏に、公明が東京で自民への選挙協力を拒否している事案を持ち出し、疑念を投げかけた。首相と距離を置く菅義偉前首相は、公明だけでなく維新とも太いパイプを持っている。


選挙協力しなければ、得をするのは当選の可能性が高まる維新であり、維新関係者も「大阪で譲歩する見返りだとすれば、そんなに悪くない」と受け止めている。


そして、この動きは首相から自公修復の要請を受けた菅氏が、公明党側の有力幹部と接触してから始まっている。そこで首相は、菅氏が一枚かんでいるのではないかと疑ったわけだ。


首相に近い政府関係者が明かす。


「首相と麻生氏は、公明党が自民党を単独過半数割れに追い込もうとしていると勘繰っている。そうなれば首相は退陣せざるを得ないが、代わって浮上するのは菅氏だ」


維新の馬場伸幸代表は6月、週刊誌のインタビューで「自民党が割れたとき、組むなら菅さんだ」と答えている。


前出の政府関係者は、自公連立の解消を求める声が多数を占める最近の世論調査結果を引き合いに出し、「連立を解消した公明党が、大阪府政、同市政でそうしていたように維新と手を結び、そこに菅氏が加わるのが、岸田政権にとって最悪のシナリオだ」と話す。


現時点では、自公連立解消と自民党分裂は想定し難いが、岸田内閣の支持率がさらに低下して政局が不安定化すれば、公明党の「裏切り」と菅氏の動きが「岸田おろし」につながる可能性は否定できない。


ただ、首相が自ら描くシナリオのように、政権が再び追い風を受け、来年秋の自民党総裁選に臨むことができれば、それこそ総裁選の前後が衆院解散・総選挙に踏み切る最大のタイミングになる。


岸田首相は安倍晋三元首相に並ぶ長期政権を築くことができるのか、この夏から秋が最大の正念場になるのは間違いない。