磯山さやか(C)週刊実話 
磯山さやか(C)週刊実話 

映画『愛のこむらがえり』磯山さやかインタビュー〜18年ぶり主演オファーにびっくり「本当に私でいいの」〜

【関連】インタビュー・大人気ピン芸人あばれる君~お笑いに出会い“サバイバル”に目覚めるまで~ ほか

――――――― 6月23日より全国公開となる『愛のこむらがえり』は、映画製作の舞台裏に渦巻く悲喜こもごもを描いたコメディー。主人公は、過去に地方映画祭でたった一度だけ受賞歴のある無名映画監督・田嶋浩平と、その才能を信じて疑わない元スクリプター(撮影現場の記録係)の佐藤香織。物語は〝いつか誰をも感動させる映画を撮る〟という夢で結ばれた同棲生活8年目に起きた2人のすれ違いから始まる。


夢と現実の瀬戸際で愛するパートナーをひたすら支え続ける香織を演じたのは、近年、女優としての活躍がますます期待される磯山さやか。故・志村けん、三谷幸喜ら喜劇の巨匠に認められたコメディエンヌのセンスをいかんなく発揮し、ともすれば重たい〝尽くし系女子〟の典型になりがちな役柄を軽やかに演じている。まずは大役を務め終えた現在の心境から。


――『愛のこむらがえり』がいよいよ劇場公開されます。今のご気分はいかがですか?


磯山さやか(以下、磯山)「なかなかないことなので、すごく嬉しいです。今回、作品の中で映画を生み出すまでの苦労が面白おかしく描かれていますが、真面目な話、ここまで辿り着けたこと自体、すごくありがたいとつくづく感謝してます」


――この作品のオファーを受けられた経緯を聞かせてください。


磯山「最初、お話をいただいたとき、本当に私でいいのって、半信半疑だったんです。でも、髙橋正弥監督からのお手紙を読んで胸を打たれて」


――どんなことが書かれていたんですか?


磯山「作品に懸ける真摯な思いと、香織という役になぜ私が相応しいのかということが率直に書いてありました。その後、監督がわざわざ会いに来てくださって。癒やし系で柔らかい雰囲気の方なんですけど、一つ一つの言葉に力があって情熱的でした。ご本人の口から直接思いをうかがったことで、その熱い期待に応えたいという気持ちが固まったんです」

ラブシーンっぽい場面で…

――18年ぶりに主演女優という形で迎えられた映画の現場はいかがでしたか?

磯山「監督をはじめとしてスタッフ全員が1カット毎に真剣に悩んで、それでいてすごく楽しそうに仕事をしているのが素敵でした。現場がとても温かい空間だったので、私も自然に頑張れたような気がします」


――劇中、監督として独り立ちできないばかりか助監督としても半人前の田嶋浩平(吉橋航也)に代わって、磯山さん演じる佐藤香織はパン屋で働いて家計を支えたり、彼の書いた脚本をプロデューサーに売り込んだりと大奮闘でした。〝あなたの夢は、わたしの夢〟という香織の生き方、磯山さんはどう思われました?


磯山「最初に脚本を読んだときは、ここまで頑張って誰かを支えられる香織ってすごい女性だなぁと。でも、正直、そこまでやらなくても、もうちょっと自分のことを考えた方がいいんじゃないかと…」


――腑に落ちない部分もあったんですね。しかし、完成した映画からはそんなニュアンスは感じられません。何か心境の変化があったんですか?


磯山「撮影が始まって、吉橋さんが演じる浩平を目の当たりにしたら、頼りないんだけど可愛らしくて(笑)。放っておけないし、気が付いたら何かしてあげたいという気持ちになっていたというか。そうしたら、他人からどう見られようが2人にとってはちっとも苦労じゃないんだなと理解できて。それに、香織は自分を犠牲にしているわけじゃないんだから〝やってあげてます感〟も出しちゃいけないなと」


――主演のお2人の空気感が、そのまま役と同化したんですね。監督からはどういう指導があったんでしょう?


磯山「監督には『どんな場面でも優しい人であってほしい』と言われました。怒っていても声は優しく、きつい言葉もトーンを優しくと。なかなかうまくできなくて悩んでいたら『普段通りの話し方でいいんです』とアドバイスされて。でも、そう言われたら、今度は『普段の私ってどういう感じだっけ?』って、また分からなくなって…」


――難しいですね。優しいだけの香織に見えてしまっても観客は感情移入できなかったでしょうし。


磯山「そうなんです。結局のところ〝普段通りの自分〟が香織なのだとしたら、何も背負い込まないで楽な気持ちでカメラの前に立つしかないんだと。監督の求める〝優しい人〟になれたかどうかは見ていただいた皆さんに判断していただくしかありませんが、私個人としては、改めて自分自身を知るいいきっかけにもなったと思ってます」


――演技といえば、物語の鍵を握る国宝級の大御所俳優の役で柄本明さんが出演されてます。柄本さんは撮影前から役に入って場の空気を作られる方なんですか?


磯山「いえ、切り替えがなくすべてがナチュラル。だから柄本さんの前ではこちらも、うわーすごいと思いながら、ずっとドキドキしたままでいられて助かりました。吉橋さんは実際に柄本さんの劇団(東京乾電池)の団員ですから、お2人が向き合うシーンもある意味でエキサイティングでした。『吉橋さん、イケイケ!』みたいな(笑)」


――いちばん印象に残ったシーンは?


磯山「吉橋さんと私は同棲中のカップルという設定なんですが、コメディーということもあってラブシーンがなかったんですね。唯一、それっぽい場面の撮影のとき、なんていうか現場の雰囲気がざわついてたんです。ウキウキしてたというか。そのシーンは甘酸っぱくてキュンとなる昔のラブコメみたいな仕上がりになっていますので、きっと懐かしく感じてもらえると思います」

高校時代の宝物のような経験

――ところで、リアルな話、磯山さんは1人の女性として、才能はあっても日頃はまったく頼りにならない浩平のような男性はどう思われますか?

磯山「う〜ん、難しい質問ですね(笑)。実際に浩平みたいなタイプの人と付き合ったら、自分が支えてあげなきゃいけないって、たぶん、私は映画の中よりずっと強い女性になってしまうと思います。といって、あまりにも自信満々の人だと自分は必要ないだろうと考えちゃうし…」


――どちらか一方が支えるのではなく、支え合う関係でありたいんですね?


磯山「はい。お互いがやりたいことをやれる環境を一緒に作っていけたら理想なんです」


――ちなみに、これまで実人生においてそういう経験は?


磯山「私、高校時代に硬式野球部のマネジャーをやっていたんです。強いチームじゃなかったんですけど、部員たちが甲子園を目指して毎日必死に頑張ってる姿を見て、自分も何か手助けができないものかと。どうすればもっと練習しやすい環境にしてあげられるか、それこそ合宿中のご飯の支度からドリンクや麦茶の濃さの調整まで一生懸命でしたね。なのに、ドリンクの甘さとかずいぶん文句を言われたんですよ(笑)」


――贅沢な部員たちですね(笑)。それで、試合には勝てたんですか?


磯山「ほとんど1回戦負けでした。でも、『3年間、野球をやってきて良かった。マネジャーのおかげです』っていう言葉を最後に聞くことができて報われました。そういう宝物のような経験を通して、もちろん結果が大事なのは間違いないんですけど、何よりやりきることに価値があると思えるようになったんです」


――なるほど、たしかに香織の役とも重なりますね。


磯山「ですから、浩平と香織の夢が叶うかどうかは映画を見てのお楽しみですが、たとえどういう結末になったとしても、きっと、あの2人は満足できたんじゃないかと…」


――最後に、映画の公開を心待ちにしていたファンにメッセージをお願いします。


磯山「皆さんがずっとファンでいてくださるからこそ、こうやってまた映画の主演を務めることができました。この作品を見て、好きなことは諦めなくてもいいんだ、頑張ろうという気持ちになっていただけたら嬉しいです。ぜひぜひ、映画館で癒やされてください」


(文/木村光一 企画・撮影/丸山剛史)
磯山さやか 1983年、茨城県鉾田市出身。2000年、グラビアアイドルとしてデビュー。『2ndハウス』(テレビ東京系)、『水戸黄門』(TBS系)、『女ともだち』(BSテレ東)他、多数のテレビドラマやバラエティー番組に出演。〝いばらき大使〟も務めている。