吉本の劇場でまだ進行係として働いていた頃、大阪・宗右衛門町のサパークラブでもボーイのアルバイトをしていたんです。お酒や料理の注文を受けて運んだりしてね。店内では、専属のバンドが生演奏をして、それに合わせてお客さんが踊ったりしていましたね。
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あるとき、司会の人が「踊っている方は一度席にお戻りください。今日はバンドのメンバーの知り合いの尾崎紀世彦さんがいらっしゃっています」。お客さんは「どこ? どこ?」と騒然となっていましたよ。尾崎さんは客席にはいなくて、バンドの楽屋で待機していたみたいなんです。すると司会の人が「今日は特別に尾崎さんが1曲だけ歌ってくれるそうです。それでは尾崎紀世彦さん、どうぞ!」。
本物の尾崎さんが登場し、1曲だけ披露してくれたんです。あまりのうまさに店内は静まり返った。歌はうまいし、声量もすごいなと感動しましたよ。当時、大阪で有名な歌手を見かけることなんてほとんどなかったんです。レコード会社は大抵が東京にあるから、みんな上京するんです。
B&Bが東京に進出し、尾崎さんと新幹線で遭遇したことがあります。数年前のサパークラブでの話をすると、「その店の名前は覚えているけど、歌ったかどうかは覚えてないな」、「俺、あそこでバイトしてたんですよ」、「バイトしてたの? 今じゃ売れっ子だね」。そんな会話を交わしましたよ。
若手芸人は飲食店でバイトすることが多いんです。鉄工所でバイトしてたなんて聞かないでしょ。なぜかと言うと、時間の融通が利くから舞台の出番に合わせられるんです。でもそれ以上に、お金がない若手にとっては食事が出るから1食助かるんですよ。
「B&B」の名前の意味合いは…!?
俺も、そのサパークラブの支配人には良くしてもらいましたよ。「漫才師」と言ってバイトをしていたから、夜の9時や10時には上がらせてもらっていた。本当は食事が出ないんですが、「食べていきなさい」と夕飯をいただいたり、余ったハンバーグを持って帰らせてくれたりしましたね。
実は、その店の名前が『B&B』なんです。半年くらいその店でバイトを続けて、辞めるとき、支配人に「B&Bという名前をコンビ名につけていいですか?」、「ええよ。この店のもんじゃない。ただ横文字を2文字並べただけだから」と許可してもらったんです。
でも、劇場やテレビでは「ボーイ・アンド・ボーイからつけました」と当時は説明していましたね。サパークラブでバイトをしていたことを説明しないといけないから回りくどいでしょ。
営業に行けば「B&Bはボーイ・アンド・ボーイの略ですけど、もう一つの意味があるんです。ビューティー・アンド・ブスの略です」。すると洋八が「どっちが男前か、お客さんに拍手で聞いてみようか?」と振る。洋八の方が3倍拍手が大きかったですね。新人の頃はギャグになっていましたよ。
それにしても、俺はバイトしていた店に尾崎さんがたまたま来たり、東尾修さんに大阪の街中で遭遇したこともあった。素人の高校生の頃には、長崎で前川清さんに出会ったりと珍しい経験をしていますよ。
他の人に聞いても、あんまり同じような体験をした人はいませんね。
島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。
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