『性産業“裏”偉人伝』第15回/外国人プロモーター~ノンフィクションライター・八木澤高明
海外取材はいつも楽しいものだが、ウラジオストクを訪ねたのは真冬で、外はマイナス20度。ホテル近くの海も凍っていて、あまりの寒さに仕事で外に出る以外は部屋にこもっていた。
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するとある日、部屋にいるのもさすがに飽きていたので、ホテルロビーのソファに座って行き交う人を眺めていたら、「どうも、こんにちは」と、いきなり日本語で話しかけられた。
私が泊まっていたのは、ウラジオストクでは高級な部類に入るホテルだったが、私の対面に腰掛けた声の主は、ねずみ色のスウェットの上下を着ていて、近所のパチンコ屋に出入りするような格好をした日本人だった。その風体からは、ビジネスマンにも見えず、観光で来ているような雰囲気でもなかった。
何者か気になったので、「どんな仕事で来ているんですか?」と尋ねると、ロシアンパブに女性を送り込むプロモーターで、松田と名乗った。そして、私の顔がスケベそうに見えたのか、男は小指を立てて、「遊びましたか?」と無遠慮に尋ねてきた。
遊ぶも何もウラジオストクは初めてで、どこで遊ぶのかも分からない。正直に打ち明けると松田はニヤリとして、ロビーのロシア人男性を手招きで呼び寄せた。
ロシア人男性に何やらつぶやくと、松田は自分の部屋に私を招いてくれた。
30分ほど待つと、やって来たのは10人ほどの若いロシア人女性だった。私はその中の1人を選んで楽しい思いをさせてもらったが、同時に、松田という男にも興味を持った。
今でも日本の歓楽街には、フィリピン人やロシア人など外国人のホステスが働くパブが少なくない。そこで働くのは、日本人と結婚し、日本で暮らす女性たちがほとんどなのだが、同時に女性の高齢化も進んでいる。
ところが今から20年以上前は、タレントと呼ばれる20代前半の若い女性たちが興行ビザによって来日し、日本各地の外国人パブで働いていた。
私にロシア人女性をあてがってくれた松田は、いわば、日本に外国人女性を送り込むプロモーター業を生業としていたのだった。
現在、松田はプロモーター業を引退しているが、現役時代の話を聞きに、大阪にある事務所を訪ねた。
「呼んできたのは、フィリピン、ロシアン、モンゴルだね。ホステスの卵を日本に連れて来るのが私の仕事。いわば人買いだね」
言われてみればその通りなのだが、松田の口ぶりは、はっきりとしていて気持ちが良かった。
「人買いをする前は、芸能プロダクションでディナーショーやコンサートでの日本人タレントの斡旋をやっていたよ。それが暴対法ができて、規制、規制でやってられないから、外国人の人買いを始めたわけよ」
フィリピンとロシアを主なフィールドとして、外国人女性を探してきたという。
お手つきした女は4人だけ
「現地のいいエージェントを見つけるまでが大変だったね。自分で女の子を集めるのは無理だから、向こうのエージェントに頼むんだけど、何度も取り引きしていくうちに、女の子の値段を吊り上げてくるのよ。こっちもお店に少しでも安く卸したいでしょう」信用できるエージェントが見つかるまで、5年かかったという。松田からしてみれば、現地で売春婦を見つけることなど簡単なことなのだった。
松田はロシア人女性が世界で一番美しいとも語った。
「肌が真っ白でみずみずしくて、14歳から17歳までが最高だね。オーディションは18歳以上という規定があるんだけど、18歳以下を対象にした青田買いオーディションもやったよ」
オーディションは現地のエージェントが女性を集める形で、最低でも100人から始まるという。1人ずつ面接して、容姿や日本語の能力をチェック。合格するのが7人から8人というから、日本のパブで働くのは狭き門であるのだ。
松田は、毎月1回はオーディションを開催し、15年にわたって仕事をした。少なくとも、2万人近い女性たちを見てきたことになる。
「いつもたくさんの女の子に囲まれてうらやましいと言われるけど、何回やっても慣れない。考えてみてよ、数百人規模のパーティーができる大部屋で、部屋にいるのは全員女の子。こんなおっさんでも、私が部屋に入るとみんなの視線が集中するのよ。みんな日本へ行きたいものだから、色目を使ってくる娘もいるしね」
女性の気持ちを利用して、オーディションの度に日本行きをエサに女の子を食いまくる者もいたという。時には松田も、その気にならなかったのか。
「当然、男だからきれいな娘を見ればやりたくなるし、お手つきもしたよ。ただ、お手つきした娘は、日本には連れて行かない。店側とトラブルの原因になるからね。あくまでも、現地で楽しむだけ。この仕事を始めてオーディションで気に入り、お手つきした女の子は4人だけ、信じてもらえないかもしれないけど。中でも、フィリピンの19歳の娘は良かったな」
松田にとってプロモーターの仕事とは、なんだったのだろうか。
「日本に来て、お金を稼いでいい思いができた子が多かったんじゃないの? 私は橋渡しが出来たのが嬉しかったし、自分もつまみ食いしたりして、いい思いもした。いい仕事だったよ」
しみじみと松田は、20年ほど前のことを振り返ったのだった。
八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。
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