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『イワナ』富山県中新川郡/黒部ダム下産~日本全国☆釣り行脚

日本全国☆釣り行脚
日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

〝期間限定の釣り〟というと一般的には渓流やアユなど、漁期の決められた釣りが挙げられます。その中でも、今回はさらに〝期間限定〟の釣りを楽しむべく、立山黒部アルペンルートの長野県側の玄関口となる扇沢駅から、朝イチの電気バスにて黒部ダムへ向かいます。数台が連なってトンネル内を走る電気バスは、朝イチの便だというのに外国人観光客で満員。難工事で知られる破砕帯を通り抜け、15分ほどで黒部ダム駅に到着です。

ここでダム方面へ向かう観光客とはお別れ。その先にある登山者出口から外に出ると、先ほどまでの喧騒がウソのように辺りはいきなり山の中です。今の時期、〝下ノ廊下〟は開通前ゆえ登山者もおらず、登山者出口から出たのはワタクシ1人。朝の心地よい山の中、遥か200メートル下の谷底を流れる黒部川に向けて下りて行きます。

日本全国☆釣り行脚
日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

しばらく歩くと〝旧日電歩道〟の看板があり、ここからはさらなる急斜面。時に丸太組のはしごを下り、幅数十センチの石混じりの道を滑らぬように下り、ようやく川の流れが見えてまいりました。到着です。

先ほど期間限定と書きましたが、10/1〜2月末日までの禁漁期間に加えて、6/26〜10/15までは黒部ダムから毎秒10トンもの観光放水がありますから、まともな釣りはできません。さらに夏でも所により雪渓が残るようなエリアゆえ、観光放水が始まるまでの6月の1カ月くらいしか、快適な釣りを楽しむことができないポイントと言えるのでありますな。

素晴らしき景観美しき岩魚

観光放水が始まると、ダム底の白濁りの水がいっぱい流れる黒部川も、この時期は御前谷からの流れのみで青く澄みきっております。早速、オモリとハリだけの簡単なミャク釣り仕掛けを竿に結び、岩陰に沈めるとグリグリッと元気なアタリで飛び出したのは、20センチほどの美しいイワナです。幸先のよいスタートに気をよくしつつ、手を川水で冷やしてから丁寧に魚を逃がします。

日本全国☆釣り行脚
日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

見上げれば雄大な大タテガビンの沢筋には雪が残り、釣り歩くうちには新緑の斜面に見事な雪渓。誰もいない谷底で、雄大な景色に囲まれて竿を出すというのはなんとも贅沢な時間です。しばらく歩いて、澄んだプール状の地形に目を凝らせば20センチほどのイワナがたくさん泳いでおります。大自然の中にあってマス釣り場のような素晴らしい光景ですが、楽しげに泳ぐこのサイズを狙うのは忍びなく、竿は出さずにさらに歩を進めて堰堤に出ました。

日本全国☆釣り行脚
日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

堰堤下に姿を映さぬように一歩下がって仕掛けを沈めると、ゴツンッ! とアタリ。流れに乗った力強い引きをいなして抜き上げたのは、25センチほどの黒部らしい黒々とした雄々しい風貌のイワナです。手早く写真を撮ってから逃がし、さらに釣り歩くうちに、今度は大きな岩が続くエリアになりました。先ほどから〝ここぞ〟というポイントでは必ずアタリがあることからも、ここにも間違いなく魚は入っているでしょう。

欲張らず満喫急登で汗だく

胸の高鳴りを感じつつ、大きな岩に隠れて真っ青に澄んだ深い落ち込みへ仕掛けを投入。そのまま流れに乗せて大岩のエグレの暗がりに仕掛けを送り込むと、待ってましたとばかりにゴゴンッ! とアタリ。一呼吸置いて竿を立てると力強い手応えが伝わります。エグレに潜ろうとする引きをかわし、バシャバシャと水面で暴れる姿に「バレるなよ」と抜き上げたのは、25センチほどのこれまた美しいイワナです。型は…尺上(30センチ以上)が狙える谷とはいえ、ワタクシの腕ではこのへんがいいところでしょう。

日本全国☆釣り行脚
イワナ 日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

谷に下りる前に「無理せず、欲張らず、深追いせず」と自分に言い聞かせていたことと、もう十分に満喫できたこともあり、この1尾を有り難く頂いて竿を納めることにします。

さて、帰り道。およそ200メートルの谷底に下りて釣りをしたということは、200メートルの急登となるわけです。東京タワーの半分強です。しかも悪路の急な山道。30分ほどかけて登り、やっと黒部ダム駅へ到着。心筋梗塞になるかと思いました。そして、観光客でごった返す中、汗だくで1人肩で息をしながら満員の電気バスで帰路に就きます。

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イワナの煮付け 日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

帰宅後は、有り難く持ち帰ったイワナを煮付けに晩酌です。澄んだ急流の黒部のイワナはクセもなく、厚めの皮に身が締まって美味。長野の地酒『大雪渓』をチビリとやって目を閉じれば、雄大な黒部の風景と美しいイワナが目に浮かびます。素晴らしき大自然の中で竿を出せた幸せを再び噛み締めつつ、疲れていたこともあって、いつの間にか眠りについたのでありました。

三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。

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