ワールド女子プロレス・ディアナ代表 井上京子インタビュー〜デビュー35周年波瀾万丈“女子プロレス界のレジェンド”〜
『ワールド女子プロレス・ディアナ』を率いる井上京子は今年がデビュー35周年。長い道のりは波瀾万丈、紆余曲折の連続だったが、少々のことでは動じないのが彼女流の生き方だ。優しさと厳しさを抜群のバランスで使い分け、後進の育成にも余念がない。そんな女子プロレス界のレジェンドに話を聞いてみた!
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――本日は井上京子さんが経営するお店『あかゆ』でのインタビューです。さっそくですが、このお店を始めたきっかけは?
井上 もともと私は全日本女子プロレス(全女)を10年で辞めて、世の中のことを何も知らないまま新団体『ネオ・レディース』の代表になったんです。高校を卒業してすぐ女子プロレスの世界へ入ったから、電車の乗り方すら分からないくらいで、そんな自分がお金の管理なんて全然できるわけがない。それでも興行をバンバン打っていたら、半年で6000万円の借金を抱えてしまったんですよ。
――かなりの額ですね。
井上 当然、1年で頓挫しました。いったん団体も閉めて、道場もなくなって、それでも所属レスラーたちを食べさせていかなければならないので、「さぁ、どうしよう」と。また、事務所も何もない状態だったので、ファンの方や応援してくれる方も、どこに連絡していいか分からないということもあって、事務所兼、後輩の選手たちのため、そしてプロレス好きが集まれる場所になればと思って、この店を始めたんです。
――反響はどうでした?
井上 レスラーは引退してから店を出すことがほとんどなんですが、私は現役で始めたので「二足の草鞋でうまくいくわけがない」とか、「そんな暇があったら練習しろ」とか、バッシングもされましたね。それでもおかげさまでこの店も、22年目になります。
練習生も今どきの子ばかり…
――団体もお店も、ご苦労があったわけですね。井上 ネオ・レディースを立ち上げるときも、周りは反対意見ばかりでした。いろいろな方にダメだと言われて、そんな中で旗揚げして、結局うまくいかなくて、あの頃は本当に大変でした。ギャラがよかったことと団体の宣伝にもなるということで、異種格闘技の試合に出たこともあります。
中でも話題になったのは「オカマのムエタイ選手」として人気だったパリンヤー選手との試合ですね。結局、いまだにギャラはもらってませんけど(苦笑)。でも、そのおかげで「あの人は今」のような番組でタイに行かせていただき、パリンヤー選手と再会したんですよ。それで「あのときのファイトマネーで女の子になったよ」と報告されて、パリンヤー選手が関わっている映画にも出演して、楽しい思いをしました。
応援してくださる大勢の方々に助けられ、今の『ワールド女子プロレス・ディアナ』は立ち上げから12年目です。やっと借金もなくなって、これからさらに頑張らないと。新人を迎えることができるようになったので、今度は寮をつくろうと思っています。
――若い練習生がいるのですか?
井上 現在5人の練習生がいます。入門希望の若い子たちなので、「私のことを知ってるの?」って聞いたら、YouTubeで見て知ったとか、子供のときに母親に連れられて女子プロレスを見て憧れていたとか、今どきの子ばかりです。
――隔世の感がありますね。
――当時は何を考えていましたか?
井上 新人時代は毎日、逃げたいと思っていました。周りの新人は、ほとんど逃げたんじゃないかな。私は唯一、逃げなかったんですけど、別に優等生とかではなくて、逃げて戻って来たときの仕打ちが怖かったんです。無視されたりしているのを目の当たりにしたので、自分は臆病だったのかもしれないですね。
今の若い子たちには、あの頃のようにはできません。でも、昔より今のほうが、女子プロレスの内容は数段ハードになっています。なので、練習内容の厳しさは変わらないけど、教え方はソフトに、笑いながら怒るみたいな(笑)。
――ディアナは若い選手も多いですね。
井上 ディアナでは昨年、小学6年生と50歳の新人をデビューさせました。
――すごい幅の広さですね。
井上 昔、全女は25歳定年制でしたけど、ディアナは年齢制限がないんです。健康でやる気があればいい。50歳でデビューした選手は、あえて年齢を隠しませんでした。最初は彼女も抵抗があったみたいですけど、今ではそれが良い方向に作用しています。私は選手だけでなく、見ている方にも夢や希望を持っていただきたいんです。下は中学生から上は61歳のジャガー横田さんまで、多種多様な選手がいる。こんな団体、ほかにないですよね。
――プロレス生活35周年だそうですが、これまでに辞めようと思ったことは?
井上 辞めたいと思ったことはないです。もちろん、プロレスが好きなんですけど、35年やっていても、いまだプロレスには答えがない。正解にたどり着けない状態ですね。奥が深くて100戦あってもすべてが違う。同じじゃないんです。まだまだ自分で探し続けている感じですね。
ジャガーさんに「私より先に絶対引退するんじゃないよ!」って言われているんですが、さすがにあんなに長く続けられるとは思えません(笑)。でも、動ける限りは続けるかな。ただ、試合ができなくなって引退というのは嫌なので、ちゃんとプロレスができる状態で引退したいですね。
若い選手たちの成長が楽しみ
――井上さんの試合を見ていると、全然息が上がっていないのがすごいですね。井上 どう説明したらいいのか分からないんですが、ある日、急にプロレスの神が降りて来たんです! 突然、息が上がらない呼吸ができるようになって、「こうすればいいのか!」と。あと、それまで受け身が苦手だったのが、急に受け身がうまく取れるようになって、それからプロレスが面白くなってきたんです。60分ドローの試合を3回やったのは私だけじゃないかな。
――プロレスの神様が降臨したんですね。
井上 そうですね。ほかの方は分からないけど、私には降りてきましたね。
――プロレスにはケガが付きものですが、大きなケガとかありましたか?
井上 ケガはたくさんしましたが、両足のアキレス腱を切ったことがあります。それも右足を切って、次の年に左足も切って。それで足に着ける装具を作ったんですけど、これが高くて10万円くらいするんですよ。
二度目のときにまた作りに行ったら、装具の会社の方に「あれ、井上さんは去年も作ってますよね」と不思議な顔をされて、「今度は反対の足をやっちゃったので」と説明したら、「あの装具は両方の足に使えますから大丈夫ですよ」と、半ば呆れたように言われました(笑)。
なので、今は練習でもストレッチを人の3倍はやります。ストレッチは大事ですね。一般の中高年の方にもオススメです。
――お酒は強そうですが、よく飲まれますか?
井上 試合の前以外は飲みますね。この店でも飲みますが、お付き合いで外にも飲みに行きます。最近は弱くなったのか、飲むたびに記憶が曖昧になっちゃうんですよ(笑)。
――楽しそうなお酒ですね。最後に今後の目標は?
井上 団体に若い子たちがいるので、これからどう成長していくのか楽しみですね。私は、自分の技を継承させようとか思いません。井上京子イズム、精神力は継承してほしいけど、若い子たちに対して聞く耳を持って、柔軟に対応していきます。こだわりがないのが、私のこだわりだから、ディアナには未来しかないです!
取材・文/飯塚則子(ライスマウンド) 撮影/小山内大輔
井上京子(いのうえ・きょうこ) 山形県南陽市出身/身長167センチ、体重108キロ デビュー戦:1988年10月10日 vs井上貴子(後楽園ホール) 得意技:ナイアガラ・ドライバー、ラリアット
〜井上京子デビュー35周年記念大会〜 ワールド女子プロレス・ディアナ 山形南陽大会 6月18日(日)シェルターなんようホール 開場12:00 開始13:00 ワールド女子プロレス・ディアナ 後楽園ホール大会 10月8日(日)東京・後楽園ホール 開場10:30 開始11:30
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