
『ファーストラヴ』
監督/堤幸彦 原作/島本理生 脚本/浅野妙子
出演/北川景子、中村倫也、芳根京子、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃、窪塚洋介
配給/KADOKAWA
2018年の直木賞受賞作品を映画化した本作。『ファーストラヴ』という甘やかなタイトルを裏切る、女子大生による父親殺害ミステリー。てっきり、初恋を意味しているのかと思いきや、「人が最初に受けるべき、根源的な愛」のことだったんです。
自分は原作を読んではいないんですけれども、親からの抑圧を受けた娘の葛藤など、女性の深層に潜む暗部を掘り下げていく作品。エンターテインメント色の強い作品でヒットを飛ばし続ける堤幸彦監督が「自分には難しい題材だった」とパンフのインタビューで語っていましたが、どの監督が映像化しても、これは手強い題材だったと思います。この暗鬱とした時代に、あえて心の傷や痛みをえぐっていく、嘘くさくない映画だとも言えましょう。
登場する人のほとんどが心に闇を抱えた複雑な人物像で、北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、木村佳乃といった人気・実力ともにトップを張る役者陣が迫真の演技で迫ります。こういった複雑な役柄は、役者として演じがいがあろうと言うもの。特に自傷癖がある娘役の芳根京子は熱演でした。
北川景子の“黒歴史”に逡巡…
そして、主演の北川景子にとっては、おそらく本作が代表作となるはず。
当代随一のべっぴん女優である彼女は、その端正な容姿とは裏腹に、関西人らしいおきゃんで気さくなお人柄なことは、バラエティーなどを通して知られてきています。とはいえ、コメディエンヌ的な役だと少々張り切り感が出てしまうように思っていましたが、主役の「公認心理師」への起用は成功していますね。
この作品のために美しいロングヘアを惜しげもなく切り、感情を抑制した台詞回しがハマっています。主人公の学生時代を演じるスッピン風から、ストレスで過呼吸になる心の闇の表現まで、多面的な演技でゾクッとくるような色気を放ち、新境地を開いたんじゃないでしょうか。
北川景子さんとは、自分がレギュラー出演していた番組に番宣で出られた際、ご一緒したことがあります。もちろん彼女が表紙を飾った雑誌を隠し持っておいて、ちゃっかりサインをいただきました。本当は彼女のデビュー作の実写版セーラームーンの絵本にいただきたかったんですが、もしかしたら封印したい黒歴史かもと逡巡し、結局、出せずじまい。しかし後から、セーラームーンこそ、彼女にとって演技の原点であり、誇りに思っているとの記事を読み、あのレアな絵本をお見せしたらさぞや喜んでいただけたのでは…。実に惜しいことをしました。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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