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『性産業“裏”偉人伝』第12回/親子風俗嬢~ノンフィクションライター・八木澤高明

Luciano Mortula - LGM
(画像)Luciano Mortula – LGM/Shutterstock

親子風俗嬢(叶さん・47歳、由美さん・25歳)

親子2代にわたって同じ職業に従事するといえば、ぱっと思いつくのは、歌舞伎役者や政治家、あるいは職人系の仕事といったところだろうか。世襲で仕事に没頭する歌舞伎役者や政治家は、世の中で憧れる人も少なくないだろう。

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ところで今回、私が話を聞いた47歳の叶と、25歳になる娘の由美は、母と娘で風俗嬢という、なんとも珍しいケースと言えるだろう。母子は公にすることなく、日陰でひっそりと、結果的に同時進行で風俗で生きてきたのだった。

果たしてそれは、偶然だったのか、必然だったのか。私は話を聞きたいと思い、叶が暮らしている埼玉県内のマンションへと向かった。

私が叶を初めて取材したのは、今から5年ほど前のこと。娘の由美も風俗嬢だと知ったのは、最近のことだという。

叶は、20年以上にわたって風俗嬢を続け、一人娘の由美を育ててきた。現在、彼女は、デリヘルを経営しているが、昔に比べたら回数は減ったものの、今も常連客から指名が入れば、自身も現場に向かうという。

「年に何度か北陸から来てくださるお客さんもいるので、そういった方のためにも指名があるうちは働きたいと思っているんです」

叶が風俗嬢となったきっかけを聞いた。

「10代で結婚して、23歳でシングルマザーになったんです。経済的に厳しかったのが理由ですね」

彼女は別れた夫が残していった500万円の借金を全部背負わされたこともあって、いくつもの仕事を掛け持ちしたと語る。

「新聞配達、居酒屋とバイトを入れて、朝から夜中まで、ほとんど寝ないで働きました。それでも借金の利子しか返せません。もう死んだ方がラクじゃないかなと思いました」

借金の重圧が続くなかで、目に留まったのが、風俗専門の求人誌だった。現金を得るためには、なんの恥ずかしさもなかった。

「面接に行って、即採用してもらったのは、ピンサロでした。お茶を引いても1日1万5000円の保証があって、生活は安定しました。ただ、次から次へと男性を相手にする。家に帰って子供とご飯を食べるときも、絶対におかずをシェアしないようにしていました。もし私が病気をもらってきたら、子供にうつしてしまうと思ったんです」

当初、叶は週に3日ピンサロで働いていたという。その後、デリヘルへと職を変えると、収入はさらに安定して、数年後に借金を完済。子供を育てあげることができたのだった。

一方、娘の由美は、母親が風俗嬢だということをいつ知ったのだろうか。叶の取材がちょうど終わる頃、事務所に由美が顔を出してくれた。2人とも、ぱっちりとした目とほっそりとした顔の輪郭など、見た目はよく似ている。

「中学生ぐらいですかね。母は夜、だいたい家を空けていたので、普通の仕事をしているんじゃないなって分かりますよね。はっきり分かったのは、母の小さなバッグに『イソジン』みたいなうがい薬とローションが入っていたのを見たことですね。薄々分かっていたので、あぁ、やっぱりねって感じでしたよ。だからといって、母親のことが嫌いになったとかはありません。一生懸命育ててくれていたのは分かっていましたので」

肉体だけでなく精神も蝕まれ…

由美は、中学を卒業後、美容の専門学校へと通い、美容師となった。そして、母親と同じように10代で結婚。相手は、中学校のときの初恋の相手だったという。

だが、結婚生活は初めからうまくいかなかった。

「一緒に暮らすようになって、暴力を振るわれるようになったんです。付き合っているときは、そんなことはなかったんですけど、急に人格が変わってしまったように感じました。ほぼ毎日殴られていました。ひどいときにはバットで殴られたこともあったんです」

そんな状況でも、由美はひたすら耐えた。

「結婚して2年目に子供ができたんです。それで、変わってくれたらいいなと思ったんですけど…」

ところが由美の思いは通じることはなく、殴られ続ける日々は終わらなかった。

このまま一緒に暮らしていては、自身だけでなく、子供に手が及びかねない…。そう思った由美は、結婚から3年が経とうとしていたある日、家族で暮らすアパートから逃げ出した。

10代で結婚し、数年で離婚。そして、子供の親権も由美が持った。

人生の軌跡は、母と娘ほぼ同じである。さらに離婚後、元夫は養育費を払うと約束していたにもかかわらず、すぐに反故にされて金欠に陥り、そして母親と同じように元夫の借金200万円も背負うことになった。

ともに、元夫に翻弄される母子。彼女たちは同じような人生を歩む星の下に生まれてきたのだろうか。

結果、由美は美容師の給料だけでは借金まで手が回らず、母親と同じようにデリヘル嬢として働くことを選んだのだった。

「見知らぬ男の人の前で裸になるのは嫌でしたけど、友達が働いていたんで、少しは気が楽でしたね」

収入は間もなく倍になり、借金もすぐに完済できた。

風俗嬢として、苦痛だったことについて尋ねた。

「始めてすぐの頃は、仕事でキスしたことを食事中に思い出して、吐いたりすることもありました。肉体だけではなく、精神的にとてもつらかったですね」

母子はコロナ禍を乗り越え、風俗を生業としながら今も生活を続けている。人に後ろ指を差される仕事とはいえ、風俗嬢になったことによって人生の窮地を乗り切り、平穏な今があると2人は実感している。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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