駆けつけた警察官2人を銃殺――。日本の安全神話は、もはや過去の遺物なのかもしれない。

長野県北部、高井富士と蛇行する千曲川の中間に位置する中野市で発生した立てこもり事件は、警察官2人に一般人女性2人の計4人が死亡するという凄惨極まりない最悪の結末を迎えることになった。

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長野県警は事件発生から半日が経った5月26日午前4時半すぎに、中野市議会議長・青木正道氏（57）の長男で農業を営む青木政憲容疑者（31）の身柄を確保、殺人容疑で逮捕した。

事件が発生したのは前日25日午後4時半ごろ。迷彩服を着た青木容疑者が突然、散歩をしていた女性2人をサバイバルナイフで刺し逃走した。その後、110番通報を受け、駆けつけた警察官2人に所有していた猟銃を発砲したのだ。

「被害者は事件現場近くに住む村上幸枝さん（66）と竹内靖子さん（70）、それに中野警察署の玉井良樹警部補（46）と池内卓夫巡査部長（61）の4人。村上さんと竹内さんは背中や胸など何度も刺された跡が見つかっている。

警察官2人も猟銃で撃たれ、ほぼ即死状態だったことが分かっている」（長野県警詰め記者）

被害者である村上さんから助けを求められ心肺蘇生を行った男性は、犯行を目撃していた。

「警察の聴き取りに対して、男性はこう話しているようです。男性が青木容疑者に『なんでこんなことをするんだ』と怒鳴ったところ、青木容疑者は『殺したいから殺してやった』と言い放ち、慌てるそぶりもなく現場を歩いて離れていったようです。また、到着したパトカーの運転席側に向け2発、銃を発射した。青木容疑者は『笑みを浮かべて楽しんでいる様子だった』とも答えている」（同）

母親と叔母も逃げだし

青木容疑者は、そのまま近くにある自宅におよそ12時間近く立てこもった。

「自宅には57歳の母親と60歳の叔母がいたが、いずれも25日の夜中に自力で逃げ出し、警察に保護されています。その後も、青木容疑者1人で籠城していたが、事件から約12時間後に父親と母親の説得に応じ、すんなりと外に出てきたところを確保されました。当初はかなり長引くと想定されたが、意外な幕引きに関係者は驚いていた様子だった」（地元テレビ局記者）

現在、警察の取り調べを受けている青木容疑者は動機について、「被害者の女性に悪口を言われたと思って殺した。射殺されると思ったので駆けつけた警察官も殺した」という趣旨の供述をしている。

「取り調べでは会話にも応じている。黙秘することもなく、出された朝食もペロリと平らげたそうだ」（前出・県警詰め記者）

わずか1日足らずで4人もの命が奪われた立てこもり事件。青木容疑者とは一体、どんな人物なのか。

「父親は市議会議長を務める傍ら、13代続く果樹農園を営み、ジェラート店なども経営するなど地元の名士。小学校の頃の青木容疑者は割と活発な子供だったようです。勉強もできたから周りからも一目置かれる存在だったと話す知人は多い。地元の名門県立進学高校卒業後、東京の私大農学部に入学するものの、数カ月で中退しています。上京して、他人とのコミュニケーションがうまく取れなかったのでは」（地元紙記者）

中野市に帰郷した青木容疑者は、父親の勧めで自衛隊に入隊したという。

「弟が幹部候補生として入隊している関係から、自衛隊を選んだようだ。しかし、ここでも人間関係に躓き、すぐに除隊している」（同）

皮肉にも、青木容疑者は自衛隊で銃に触れる機会を持ったという。ちなみに、安倍晋三元首相銃撃事件の犯人・山上徹也被告（42）も海上自衛隊在籍歴があり、実射訓練を経験していた。

「除隊後に青木容疑者が興味を持ったのがサバイバルゲームです。恐らく自衛隊で銃の魅力に取りつかれたことが原因です。5年ほど前に害獣駆除を理由に猟銃の免許を取得しています。銃の購入費は親が工面したそうです」（捜査事情通）

精神疾患の可能性は…

4人を殺害した犯行時間は10〜15分。これが青木容疑者が迷彩服に身を包み、銃の扱いにも手慣れていた理由だ。

青木容疑者の父親である青木正道市議会議長は、26日に「一身上の都合」による議員辞職願を提出し、同日、許可された。

「青木容疑者の家族構成は両親、弟、妹の5人。事件は自宅周辺で起きており、被害者も近所の住人と警察官…。家族はいたたまれないでしょうね。地元の名士だったからなおさらです」（取材記者）

今後の青木容疑者については、将来的に無罪になることも取り沙汰されている。起訴前に事件当時の刑事責任能力の有無などを調べるため、鑑定留置される可能性が高いからだ。

「精神科医によって数カ月に及ぶ鑑定が行われる。結果、心神喪失と判断されると刑事責任を問えない。実際、2017年に兵庫県神戸市北区で祖父母や近隣住民ら5人を殺傷した男性被告と、2019年に大阪府吹田市で警察官を包丁で刺して拳銃を奪った男性被告には、無罪判決も出ている。いずれも、被告が心神喪失状態で刑事責任能力がなかったと判断されたからです」（司法関係者）

青木容疑者は長野県公安委員会への猟銃の許可申請に際し、精神疾患などの異常は『ない』との医師の診断書を提出している。

青木容疑者の犯した罪は重い。