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『見るレッスン―映画史特別講義』(光文社新書:蓮實重彦 本体価格820円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

見るレッスン―映画史特別講義(光文社新書:蓮實重彦 本体価格820円)
見るレッスン―映画史特別講義(光文社新書:蓮實重彦本体価格820円) (C)週刊実話Web

まず〝日本映画 第三の黄金期〟と目次にあるのに思わず目を疑ったのは、ある種、書名の注文通り。黄金期ってまさか、只今現在のことじゃないですよね?

帰国子女で日本語が多少不自然な主人公を、なぜ韓国人の女優が演じなければならぬのか最後まで説得力皆無な上に、杜撰な脚本と安手な演出でいっぱし〝政治の闇〟を暴いてみせたつもりらしい『新聞記者』のごとき噴飯ものの駄作が、日本アカデミー賞各賞を総ナメにしたのはつい最近のこと。

いくらヴェネチアで監督賞受賞といわれようが、黒沢清の『スパイの妻』は彼の過去の諸作と比べて見劣りは否めないし、劇場で流れる予告篇からしてギャグの寒さに身の毛がよだつ『新解釈・三国志』だの、あとはもはやタイトルすらいちいち弁別できない若い男女ののっぺりした恋愛ものばかりではないか。

御年85歳の著者 容赦ない毒舌健在

そして、興行成績の全体はアニメ『鬼滅の刃』ブームに支えてもらっている始末。この状況のどこを指して、一体黄金期と呼べるのか? と、内心異を唱えつつ読み進めれば、まだまだドキュメンタリー分野を中心に未知の監督の多さを思い知らされて、喰わず嫌いと不勉強は改めて自戒せねばと痛感する。

御年85歳の著者。最前線への目配りの幅広さも圧倒的ながら、容赦ない毒舌も健在なのが心強い。「(オリヴィエ・)アサイヤスと(マーティン・)スコセッシが世界で最も過大評価されている監督」にどれだけ膝を叩かされることか。往年の晦渋極まる文体に慣れた読者からすれば、インタビューをもとに構成の、著者初の新書とあって抜群の取っつきやすさ。「黒澤明は『馬』は撮れても『馬の色気』は撮れない」が、J・フォードはどう違うのか…の一節など、繰り返し吟味したい。

(居島一平/芸人)

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