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北朝鮮“軍事衛星”打ち上げでミサイル命中精度が向上?自衛隊には「迎撃困難」か

Alexander Khitrov
画像:Alexander Khitrov / Shutterstock.com

米国本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、日本や韓国を標的にした多様な短・中距離弾道ミサイルの開発を進めてきた北朝鮮が、いよいよ目標を捉える「目」となる軍事偵察衛星の打ち上げに本腰を入れ始めた。

4月18日、金正恩総書記が同国の国家宇宙開発局を現地指導し、計画された期間内に「軍事偵察衛星1号機」を打ち上げる最終準備を急ぐよう指示。連続して数個の偵察衛星を投入し、情報収集の能力を構築するよう命じたという。

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これに対して松野博一官房長官は、4月19日の会見で「衛星と称しても、弾道ミサイルや弾道ミサイル技術を使用した発射を強行すれば、明白な安保理(国連安全保障理事会)決議違反になる」と指摘し、「わが国の安全保障上の重大な挑発行為だ」と述べた。

また、浜田靖一防衛相は4月22日、北朝鮮の偵察衛星が領域内に落下する事態に備え、自衛隊に「破壊措置準備命令」を発令。防衛省は沖縄県の宮古、石垣、与那国3島に、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)を配備した。

「正恩氏が偵察衛星を堂々と『正当な防衛権である』と主張していることから、発射予定日を国際機関に事前通告する可能性は残されています。しかし、米韓による電波妨害や迎撃を警戒して、不意に発射することは十分に考えられるでしょう」(軍事ライター)

『光明星号』は長距離弾道ミサイルだった!?

その理由は2月24日、米インド太平洋司令官が「北朝鮮が太平洋に大陸間弾道ミサイルを発射すれば、即刻撃墜する」と発言したことに関して、正恩氏の代弁者である実妹の金与正党副部長が反論。3月7日の談話で「われわれの戦略兵器実験に迎撃のような軍事的対応が伴う場合、わが国に対する明白な宣戦布告と見なす」と警告したからだ。

こうした北朝鮮の恫喝が続く中、在日米軍も慌ただしさを増している。

「沖縄の嘉手納基地では5月上旬ごろから、米空軍の電子偵察機やミサイル観測機が活発に離陸しており、偵察衛星の打ち上げを計画している北朝鮮に対し、米軍が警戒や監視を強めているものとみられます」(地元局記者)

北朝鮮は1998年8月から2016年2月まで、6回にわたり『光明星号』と称する衛星を打ち上げ、うち4回が「軌道に上がった」と主張している。しかし、衛星からの通信電波が確認されておらず、また画像も送信されていないことから、国際社会は「北朝鮮が衛星に見せかけて、事実上の長距離弾道ミサイルを発射した」と批判してきた。

「北朝鮮は21年1月の朝鮮労働党大会で、兵器開発の5カ年計画の中に軍事偵察衛星の打ち上げを盛り込んでいます。最後の打ち上げから7年余りが経過し、ロシアや中国の技術支援で性能を向上させていると考えられますから、是が非でも成功したいでしょう」(前出・軍事ライター)

命中精度も向上する…

では、打ち上げの時期はいつ頃だろうか。

「外交カード(示威行動)としての側面も併せ持っていることから、日米韓の動静を見ながら打ち上げの時期を見定めるつもりでしょう。区切りがいい6月12日の米朝首脳会談5周年や同25日の朝鮮戦争勃発73周年あたり、もしくは7月3日の『戦略軍の日』や同27日の朝鮮戦争休戦70周年が有力です」(同)

北朝鮮が偵察衛星を運用し、攻撃対象の位置や状況を正確に把握できるようになれば、弾道ミサイルの命中精度が飛躍的に向上する。

「最も解析度が高い偵察衛星なら、宇宙から地上にいる人の足跡が見えます。米韓の情報によれば、北朝鮮の衛星は空母と普通の艦艇を区別できる程度。現段階では相当に劣っていますが、北朝鮮も国家の存亡が懸かっていますから、西側の技術にすぐ追いついてくるかもしれません。そこが怖いところです」(国際ジャーナリスト)

北朝鮮の弾道ミサイル開発は、日本の予想を上回るペースで進んでいるという。現状、意図的に角度をつけて高く撃つ「ロフテッド軌道」で発射された場合や、大量のミサイルを同時に発射された場合、自衛隊では「迎撃困難」だとされる。

「今回の破壊措置準備命令にしても、なんとなく名称だけは勇ましいが、北朝鮮の偵察衛星を日本が撃ち落とすわけではない。あくまでも北朝鮮が打ち上げに失敗して、ミサイルの破片が日本領内に落下してきたケースのみ、迎撃を試みるという話です」(同)

本格的なミサイル迎撃が困難な日本では、せいぜいJアラートが発令された場合に備えて、各自が身の安全の確保に努めることしかできない。

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