(画像)Sasa Dzambic Photography / Shutterstock.com
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プーチンに謀反!? ロシア軍幹部にブチ切れた“死の料理人”プリゴジン氏の野望とは

ロシアではウクライナ侵攻をめぐり、同国政府や正規軍に民間軍事会社『ワグネル』創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が刃を突きつけ、内紛の火種が爆発寸前だ。


〝死の料理人〟ことプリゴジン氏はウラジーミル・プーチン大統領とは旧知の間柄で、その蜜月関係を利用してのし上がった人物。しかし、軍事的にも政治的にも権力を強めた昨今では、いつプーチン氏に謀反を起こしてもおかしくない。


「弾薬の供給がないと撤退する」


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5月5日、プリゴジン氏はウクライナ東部の激戦地バフムトで、ロシア正規軍の幹部に向けて不満を爆発させた。同氏は「ショイグ、ゲラシモフ、弾薬はどこへ行った!」と、国防相と参謀総長を名指しで非難したが、怒りの矛先は当然、軍の最高司令官であるプーチン氏にも向けられている。


いったんは弾薬の供給が約束されたとして矛を収めたが、すぐに「約束の10%にも満たない」「ロシア軍の旅団がバフムトから逃走し、ワグネルの部隊がウクライナ軍に包囲される恐れが出ている」とブチ切れている。


プーチン氏の事実上の独裁体制であるロシアで、ここまでプリゴジン氏がやりたい放題できるのはなぜか。それはロシアの戦力として、現状ではワグネルが欠かせないからだ。

ワグネルの犠牲者はカウントされない

プリゴジン氏が資金提供して創設されたワグネルは、民間軍事会社とは名ばかりで、実際は汚れ仕事もいとわない〝はぐれ軍団〟だ。シリアやスーダンなどの内戦にもカネで雇われて参戦し、非人道的な戦闘行動もこなしている。2022年2月のウクライナ侵攻でも、主力となったのはワグネルだった。

「プーチン氏は当初、FSB(ロシア連邦保安庁)の楽観的な情報を基に、ウクライナの首都キーウを短期間で制圧可能だと信じていました。しかし、正規軍を投入して大失敗。正規軍は物資の横流しなどもあって想像以上に弱体化していたことから、プーチン氏はワグネルを重視する戦略に方針転換したのです」(安全保障コンサルタント)


ワグネルを派遣しておけば、戦争犯罪を問われても軍の関与を否定できる。また、ワグネルは軍経験者のほか受刑者も戦闘員に採用していたので、死者が出た場合でも軍の犠牲者としてカウントしなくていい。プーチン氏にとっても、ワグネルの派遣はメリットがあるのだ。


プリゴジン氏の素性を明かすと、61年6月1日生まれの61歳。プーチン氏と同郷のサンクトペテルブルク出身で、若い頃には窃盗や強盗、詐欺などで収監されている。見た目通りの武闘派だ。


ホットドッグの屋台やレストラン経営で成功を収め、当時、サンクトペテルブルクの副市長だったプーチン氏と意気投合。プーチン氏が大統領に上り詰めるにつれプリゴジン氏も巨万の富を築き、新興財閥に成長したというのが表向きのストーリーだ。


「そんな綺麗事がロシアにあるはずがありません。プリゴジン氏が裏カジノ運営で荒稼ぎしていたのは、半ば公然の秘密です。副市長だったプーチン氏は取り締まりを担当していたが、お目こぼしする代わりに巨額のカネが動いたとみられています」(大手紙デスク)


プーチン氏と深く結びつき、何かと重用されたプリゴジン氏は、14年ごろにワグネルを創設して活動を開始。ロシアがクリミア半島を併合した際に派遣され、その名を知られるようになった。

戦果を上げた“ポスト・プーチン”

プリゴジン氏は16年の米大統領選挙で、親ロシアとされるドナルド・トランプ氏を勝たせるため、関連するインターネット企業を通じて情報工作を指示。この選挙介入の疑いでFBI(米連邦捜査局)に指名手配され、25万ドル(約3300万円)の賞金首を懸けられている。

ウクライナで戦果を上げて発言力を強めたプリゴジン氏には、「ポスト・プーチン」の呼び声が高い。しかし、そうなってくると面白くないのがプーチン氏で、正規軍を優先したり、ほかの民間軍事会社を起用したり、次第にワグネルを冷遇するようになった。


そして、激戦地のバフムトで弾薬の供給を渋ったことで、冒頭のようにプリゴジン氏が怒りをあらわにしたというわけだ。


「軍人ではないプリゴジン氏が民間軍事会社を持っているのは、カネ儲けのほかにも理由があります。権力争いがすさまじく暗殺が日常茶飯事のロシアでは、戦国武将のように軍事組織によって自分の身を守る必要があるのです」(同)


プーチン氏とプリゴジン氏の関係は、現状では決裂という段階には至っていない。だが、ウクライナが大規模な反撃に出てロシアが追い込まれ、プーチン氏の立場が危うくなれば、事態は大きく変わってくる。


ともすればプリゴジン氏の部隊が〝主君〟のプーチン氏を急襲し、ロシアにおける〝本能寺の変〟が勃発する可能性もある。


「プリゴジン氏は政治経験がなく、指名手配されているお尋ね者なので、西側諸国との外交が不可能です。自分で大統領になるのは難しく、別の政治家を表に立てて黒幕として暗躍するしかありません」(前出・安全保障コンサルタント)


待ち受けるのは闇将軍の座か、三日天下か、それとも謀反失敗か。