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『北関東「移民」アンダーグラウンドベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』著者:安田峰俊~話題の1冊☆著者インタビュー

『北関東「移民」アンダーグラウンド』文藝春秋
『北関東「移民」アンダーグラウンド』文藝春秋

『北関東「移民」アンダーグラウンド』文藝春秋/1760円

安田峰俊(やすだ・みねとし)
ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了(中国近現代史)。『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)が第5回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

――なぜ、ベトナム人社会が北関東に集まっているのでしょうか。

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安田 ブルーカラーの労働力の需要が極めて高いため、来歴が定かならぬ外国人でも働ける職場が多いこと、東京から比較的距離が近く、空港へのアクセスが良いことなどが挙げられます。ベトナム人の場合、仲間たちと5〜6人で一つのアパートで共同生活を送るので、周囲から奇異に見られないそこそこ現代的な土地である必要もありますね。ベトナム人たちの話によれば、技能実習生が職場を逃亡する際に、手引きを行う複数の在日ベトナム人組織が、群馬県や茨城県に拠点を置いている模様で、このことも大きな要因でしょう。

――実際に彼らのアパートに突撃し、交流しています。どんな人たちなのでしょうか?

安田 アポなしでピンポンを押した場合でも、ビールや食べ物を突き出して一緒に食おうと言えば、断る人はほとんどいません。逆にしっかりスーツを着込んで名刺を出して訪ねると、拒絶されるはずです。やはり、パーカーにジーパンを穿いて、酒をぶら下げて訪ねるのが1番いい(笑)。彼らに共通する特徴は、あまり後先のことを深く考えず、ノリが良いということ。ただし、同じ屋根の下に暮らしている相手であっても、他人の素性に対しては極めて無関心です。彼らは基本的に口が軽いのですが、同居人が重大な事件を起こして逮捕されても、詳しいことは本当に何も知らなかったりします。

ある事件では冤罪でも…

――「群馬の兄貴」とはどんな人物なのですか?

安田 群馬県太田市の田んぼの真ん中の貸家に住んでいた、在日ベトナム人のリーダーです。2020年秋に群馬県警による大規模な捜査が行われ当時、群馬県内を中心に発生していた家畜の大量窃盗事件の犯人と目され逮捕されました。しかし彼は窃盗には関与しておらず、冤罪でした。県警の大失態です。彼は現地のベトナム人たちの違法賭博の胴元の1人であったらしく、借金を返さない同胞を拉致して、部下に殴らせるなど、他の悪い事はたんまりやっていたようなんですが…。

――近年、収穫時期になると発生する桃窃盗事件にも深く関与しているとか。

安田 家畜や果物の窃盗は日本人はあまり行いません。なぜなら、転売ルートを探すことが難しい上、利ざやも大きくないからです。しかし、ベトナム人の間では盗んだ果物や家畜が流通するのです。また、慢性的な人手不足から窃盗に対する完全な防御は難しくなっていて、必然的にターゲットになってしまうのです。
(聞き手/程原ケン)

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