蝶野正洋『黒の履歴書』〜喫煙の賛否両論とプロの自覚
ある芸人が「タバコを吸う寿司職人に、美味い寿司を握れるとは思わない」という趣旨の発言をして賛否両論となっているそうだ。
確かに紙タバコを吸うと、指や体にニオイがつく。だとしても、ちゃんと手を洗ってから握ればいいじゃないか、という意見もある。
俺はヘビースモーカーだけど、素手で食べ物を扱う職人が裏でタバコ吸ってると思うと気にはなるね。左手で吸って、右手で握ってくれればまだいいけど(笑)。
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ニオイはともかく、タバコは味覚と嗅覚が鈍くなるから、料理人はそもそも吸うべきじゃないということも昔からよくいわれている。
でも、これは人によるからね。タバコを吸うと心肺機能が弱まるからアスリートやプロスポーツ選手にとってご法度とされてるけど、吸っててもトップクラスの成績を残す人もいるから。
もう一つ、寿司職人に修業は必要かという議論もある。寿司職人の世界は丁稚奉公のように弟子入りして、最初は皿洗いや仕込みの手伝い、それから飯炊きを覚えて、10年くらい修業してからようやく寿司を握れるようになるという。一方で、最近は寿司職人になるための専門学校があって、2カ月もあれば技術を覚えられるから修業なんて意味がないと主張する人たちもいる。
これはプロレス界にちょっと似ていて、俺らの時代は丸刈りで入門して、道場に住み込んで練習に明け暮れて、ちゃんこ番や先輩レスラーの付き人もやって、ようやくデビューするというのが普通だった。
それがアメリカあたりにプロレスのスクールができ始めて、そこで技術を学んでプロデビューするというパターンが出てきた。
個性はスクールじゃ学べない
いまでは日本でも道場に住み込むような徒弟制ではなく、スクール的に教える団体も多い。おかげで一定のレベルの底上げにはなって、レスラーの数も増えたと思う。ただ、スクール出身だと人間的なところで支持されるような個性的なレスラーがなかなか出てきてないような気がするんだよ。やっぱり基本的な技術だけじゃなく、その先を表現したり、個性を磨いていくということはスクールじゃ学べないのかもしれない。
俺は猪木さんの付き人をやらせてもらったけど、プロレスの技術的なことを直接教わったということはほぼない。でも、一流の人のそばにいることで一流の人と会うことができるし、一流の場面に出くわすことができた。猪木さんの近くで見聞きしたり、学んだことは本当に貴重な経験だった。
寿司職人も一緒だと思うんだよ。一流の寿司店には、一流の客がくる。そのお客さんに対して、どういう寿司を握れば満足してもらえるか。握る技術もだけど、接客の技術も大事。それを下働きしながらでも、現場で見たという経験が糧になっていくんじゃないかな。
逆に言えば、そういう経験を積んだ一流の職人が握る寿司だったら、ちょっと料金が高くても構わない。食事をするというのは、味の品評会じゃない。雰囲気やサービス、接客を含めて対価を払うもの。ただ学校の成績が良かっただけの職人が握った寿司なら、デリバリーでもいいから。
そう考えると、タバコを吸ってる寿司職人は、これまでどういう修業をしてきたかということも窺い知れるから、客から敬遠されてしまうのかもしれないね。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。
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