「岸田政権」支持率回復でも“早期解散”に踏み切れないワケ…“核と金融”ダブル危機か
支持率回復を背景に、岸田文雄首相が早期の衆院解散に踏み切るとの観測が強まりつつある。しかし、一方で激動の国際情勢は予断を許さぬ状況になってきた。統一地方選挙、衆参5補欠選挙の結果も出そろったことで、首相はどのような判断を下すのだろうか。
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「時代は大きな転換点に差し掛かっている。その中でどの政党に未来を託すべきなのか、皆さんに判断していただきたい」
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岸田文雄首相は衆参5補欠選挙の最終日となる4月22日、激戦となった衆院千葉5区と和歌山1区、参院大分選挙区を回って支持を訴えた。15日に爆発物を投げ込むテロ未遂事件が起きた和歌山では、犯人を取り押さえた漁師にお礼を言うパフォーマンスも忘れなかった。
首相の政権運営を評価する「中間選挙」の位置付けとなった今回の5補選。千葉、和歌山、大分に加え、衆院山口2、4区の各選挙区で戦いが繰り広げられ、自民党が4勝1敗という結果になった。
統一地方選挙では、4月9日投開票の前半戦で9知事選のうち、保守分裂選挙となった徳島を含めて7つを自民党系で制した。41道府県議選では、総定数の過半数となる51%の議席を獲得した。
過半数議席は、安倍政権時の2015、2019年に続くものだ。昨秋来、政権を揺るがしてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の影響はほとんど感じられず、党内では「政権基盤が堅固であることが確認できた」(選対関係者)との評価になった。
こうした中で迎えたのが5補選だった。もともと千葉と山口の計3選挙区は自民党だったので、3議席確保は最低ライン。そのため、首相と党選対は議席の純増となる「4勝以上」を実質的な勝利の条件と定め、さまざまな手を打ってきた。
千葉5区は自民党の薗浦健太郎元首相補佐官(麻生派)が、「政治とカネ」問題で略式起訴され、議員辞職したことによる選挙。そこでイメージを刷新しようと、首相と麻生太郎副総裁のトップダウンで34歳の女性候補、英利アルフィヤ氏を擁立し、混戦を制した。
和歌山1区、山口2、4区は、いずれも強固な保守地盤を生かして組織固めを徹底した。和歌山ではテロ未遂事件が起きた後も、首相が「大切な選挙戦を最後までやり遂げなければならない」として遊説を続行したが、唯一、自民党候補が敗れた。
サミットの成功次第で…
大分では自民党として、大分市長選に立候補した国民民主党の元参院議員だった足立信也氏の支援に回り、無投票での初当選をお膳立て。大票田の大分市で中立を保つよう仕向けた。選挙戦前、自民党選対幹部は「少しでも気が緩むと2勝3敗になりかねない」と、各陣営に取り組み強化を要請した。一方で首相には「5戦全勝もあり得る」と報告し、内閣支持率が回復基調にある首相の遊説日程を積極的に組み、露出を高める作戦に出た。
結果としての4勝に、自民党幹部は「統一地方選を含めて、これが今の岸田政権の実力だ」と表情を引き締めた。
この中間評価を受けて、永田町では首相が本気で早期の衆院解散に踏み切るのかどうかが、まさに関心事になっている。読売新聞が4月14〜16日に実施した世論調査で、内閣支持率は47%と前月から5ポイント上昇した。同時期のテレビ朝日は45%ながら、一気に10ポイントも戻した。
長期政権を目指す首相にとって、24年9月の自民党総裁選は絶対に勝たなければならない戦いだ。国民の支持が回復しているうちに衆院選に打って出て勝利すれば、総裁選での再選につながっていく。「いつ解散するのか」が焦点になるのは、こうした理由からだ。
首相は3月28日、「支持率に一喜一憂せず、リアリズム外交や子育て政策など、先送りできない課題に一意専心で取り組んでいく。今はそれしか考えておりません」と記者団に述べ、早期解散を否定したが、永田町でこの発言をそのまま受け取る向きは少ない。
統一地方選と衆参5補選を終えた今、5月19〜21日に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)を成功に導けば、首相は通常国会の会期末となる6月21日までに、衆院解散するとの見方がくすぶる。
サミットで首相は、「核による脅し」という禁じ手を使うロシアのプーチン大統領をけん制するため、G7として「核の不使用」を打ち出す一方、ウクライナ支援でのさらなる結束をアピールしようと意気込む。
外務省幹部は「各首脳を引き連れての平和記念資料館訪問など、被爆地である広島で首相が指導力を発揮する演出にもこだわる」と意気込む。首脳宣言を手堅くまとめ、新聞やテレビで連日大きく報じられれば「成功」という、したたかな計算も見えてくる。
先の選対関係者は「サミット後に内閣支持率が50%を上回り、自民党支持層での支持率が75%を超えれば、解散に向けての外的な環境は整う。それぞれ10ポイントずつ上乗せすればいい」と話す。
「議長国として責任は重い」
実際、早期解散説を裏付けるような動向も伝わる。政府関係者によると、官邸や岸田派の中では、解散のタイミングについて「総裁選での勝利が最優先であり、そのためには衆院選勝利の余韻が残るよう、できるだけ総裁選に近づけたほうがいい」という意見が根強い。だが、一方で「じり貧になるよりは総裁選の1年以上前でも、解散できるときにするのはベターな選択」との声もあるという。
岸田首相も周囲に「(時機を逃して負けた)麻生氏や(解散できなかった)菅義偉前首相と同じ轍は絶対に踏みたくない」と、事あるごとに話している。
しかも、早期解散を決断すれば、立憲民主党は党内外で評価が低い泉健太代表のままで、戦わねばならなくなる。統一地方選で議席を増やして勢いづく日本維新の会も、全289小選挙区への擁立は進んでいない。
気になる動きもある。4月11日に首相が自民党の宮沢洋一税調会長を官邸に呼び、1時間近く会談したことだ。内容の詳細は伝わってこないが、大幅増となる防衛費の財源問題について、議論に着手するよう指示したのではないかという。
首相は3日後の14日夜には、宮沢氏をはじめ党税調の「インナー」と呼ばれる幹部を東京・赤坂の日本料理店『赤坂・浅田』に招いた。次期幹事長とも目される森山裕選対委員長の姿もあった。
宮沢氏らは防衛財源について、法人税や所得税、たばこ税の増税でまかなうべきとの立場。このため自民党内では、夏までに一定の方向性を首相に出させ、解散の大義名分にするのではないかとの臆測が飛び交う。
こうした状況に、閣僚を複数回経験した中部地方のベテラン議員は、ゴールデンウイークから事実上の選挙運動に入れるよう、事務所スタッフに準備を指示。選挙区内のポスターを張り替える議員も出始めた。
首都圏のある中堅議員は「統一地方選の応援はできる限り引き受け、自分の選挙のつもりで名前を連呼した」と明かした。
ここまで環境が整ってくると、岸田首相は本当に早期解散を断行しそうだが、肝心なのは首相の本心だ。これについて、首相に近い岸田派幹部は少し冷静な見方をする。
「首相は一貫して『衆院は十分に安定しており、減らしたくない』『やるべきことが山のようにある』と話している。しっかりと実績を積み重ねて、その結果を判断してほしいと思っているのではないか」
確かに岸田政権が取り組むべき課題は多い。首相が掲げる「異次元の少子化対策」にしても、公的保険制度で国民負担を求めていくのかを含めて、具体的な制度設計はこれからだ。
物価高は続いており、継続的な賃上げ実現は不可欠。そのためには新型コロナウイルスの影響で疲弊した経済の再生と、看板政策である分配強化のための「新しい資本主義」の推進は「待ったなし」でもある。
こうした状況の中で、実は首相が最も気に掛けていることがある。ロシアによる核兵器の使用だ。
今後、北大西洋条約機構(NATO)の主要国からウクライナ軍が戦車や長距離砲の提供を受け、反転攻勢を強めた場合、現地での戦闘が激化すれば、ロシアによる核使用がますます現実味を帯びてくる。
実際に核が使われれば第二次世界大戦後初の事態となり、日本を含めて世界は一気に核危機の淵に立たされる。そのときに「選挙で対応できませんでした」というわけにはいかない。ましてや今年はG7議長国だ。岸田首相は周囲に「議長国として責任は重い」と、口酸っぱく話しているという。
さらに、国際金融への懸念も存在する。米国では過度のインフレが収まりつつあるものの、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げは続いており、米国や欧州で起きている金融不安が、かつてのリーマンショックのように危機に転じる恐れがないとは言えない。
先の政府関係者は「核と金融の2つの危機が顕在化してくるとすれば、今年の夏以降ではないか」と、先行きを懸念する。
危機のレベルに違いはあるが、16年4月の熊本地震を受け、当時の安倍晋三首相は狙っていた衆参同日選挙を断念した。08年に麻生氏が解散を見送ったのは、リーマンショックが起きたからだ。
幹事長人事めぐり駆け引き
そもそも、自民党内には「首相は急いで解散カードを切る必要はない」(閣僚経験者)という声もある。支持率が回復基調にある岸田首相を脅かす存在は、現時点で党内に見当たらない。ライバルと目される河野太郎デジタル相と茂木敏充幹事長は、いずれも党内に支持が広がらず、展望は開けていないのが現状だ。
したがって「首相はまず人事で基盤固めを行い、それから解散のタイミングを探っていけばいい」との意見は少なくない。
首相は4月6日夜、安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相と、東京・銀座の日本料理店『新ばし 金田中』で会食した。その席で森氏は、安倍派として岸田政権をしっかりと支えていく考えを伝えたという。
首相は17日夜にも、今度は茂木氏と東京・南青山の天ぷら料理店『天ぷら 天青』で、珍しく2人きりで会食した。茂木氏はその半月前に、麻生氏と4時間にわたり話し込んでいる。
一連の動きから透けて見えるのは、自民党ポストをめぐる駆け引きだ。森氏は、萩生田光一政調会長の幹事長起用を期待する。萩生田氏は安倍派後継会長の有力候補だ。茂木氏は総裁選出馬を見送る場合に備えて、取り入る麻生氏を頼って幹事長留任の目を残したい。
党内実力者の思惑が首相を軸に交錯しているのは、かつてないほど求心力が高まっている局面であるからに他ならない。こうしたことを踏まえれば、首相は党役員人事と内閣改造で政権基盤をより強固にして、その先に解散を見据えているようにも見える。
果たして岸田首相は、サミットを成功裏に終え、内閣支持率がさらに上昇したときにどう判断するのか。権力維持の絶好のタイミングだと見切り、解散を決断するのか。それとも内外の情勢を鑑みて、実績を積み重ねていく道を選ぶのか。
結果はそう遠くない先に分かるだろう。
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