濱の狂犬・黒石高大インタビュー〜格闘技大会でも名を馳せる異色の俳優〜
バイオレンス映画やVシネマを中心に活躍する俳優の黒石高大は、前田日明が主催する不良の格闘技大会『THE OUTSIDER(ジ・アウトサイダー)』出身という異色の経歴の持ち主。近年は役者としての幅を広げると同時に1分間限定の格闘技大会『BreakingDown(ブレイキングダウン)』でも突貫ファイトを展開。一歩も引かない男くさい生きざまは、世代を超えて熱い支持を集めている。
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――――――― ――もともとは街の不良だった黒石さんが、俳優を目指したきっかけはなんですか?
黒石 ビートたけしさん監督の『BROTHER』。あの映画にハマッたんですよ。そのまま近所のレンタルビデオ店にあるヤクザ映画を全部見ました。それで思ったのは「俺がこの世界に入れば、もっとリアルなアウトロー作品をつくることができる」ということ。何しろ不良の世界はいくらでも見てきましたからね。
――説得力が違う、と。
黒石 だけど、具体的に何をどうすればいいのか全然分からなくて…。芸能界なんて程遠い世界で生きてきましたから。周りの連中は土建屋、本職、あとは今で言うところの半グレ。戸塚の愚連隊上がりなんて、それくらいしか将来の選択肢がないんです。誰にも相談できないから、こそこそと『月刊オーディション』を読み込んでいました。周りは『実話ドキュメント』とか『実話ナックルズ』ばかり読んでいるというのに。中には『週刊実話』派の奴もいたかな(笑)。
人生で大切なほぼすべてを学んだ不良時代
――目に浮かぶようです。黒石 だけど俺、昔から行動力だけはあって、「うじうじ悩む前に、とりあえず動いてみる」という姿勢は今に至るまで一貫しています。それで遠藤憲一さんの事務所に応募したんですよね。自分は役者にしても格闘技にしても、センスや能力は大してないと思っています。だけど、クソ度胸だけはあった。人間って自分が知らない世界に飛び込むのが怖くなるじゃないですか。そこで引いちゃったらダメなんですよ。
――そこは人生の分岐点かもしれないですね。
黒石 不良時代、「これはたぶん負ける」と思ってケンカを避けたことがあるんです。あとで、そのことをめちゃくちゃ後悔しましてね。本当に自分がダサいと思った。男じゃないなと反省しました。もちろん今はケンカなんてしないけど、そのときの気持ちだけは絶対に忘れたくないです。
――ヤンチャしていたことも無駄ではなかった?
黒石 はっきり言って不良の世界なんて、理不尽なことばかりなんです。それでも先輩の顔を立てて、悔しい思いをグッと我慢して、きちんと大声で挨拶して、思いっきり腰を低くして、「辞めたいな、逃げたいな」という気持ちを殺さなくてはいけない。人生で大切なほぼすべてのことを不良時代に学んだ気がしますね。ブン殴られながら、徹底的に教育されましたから。
――『THE OUTSIDER』出場はどういう流れで決まったんですか?
黒石 これは単純に自信があったから。ケンカで負けたことは何度もあるけど、同じくらいの体格の奴が相手だったら全部勝っていたんです。体重を合わせてくれるなら、余裕だと思っていましたよ。それこそ「井の中の蛙、大海を知らず」を地で行く感じで(笑)。
人間としての器がとにかく大きい
――話の順番としては、役者を目指していたところに格闘技の話が来たということですか?黒石 そう。でも、結果的には『THE OUTSIDER』に出たことで人生が変わりましたね。出ていなかったら、役者になれなかった可能性はすごく高い。せいぜい半グレみたいになって、キャバクラのVIPルームで下品にシャンパン空けるのが、最大限の成功だったんじゃないですか。
――まさに不良の登竜門だったわけですね。
黒石 全部は前田日明さんのおかげですよ。本当に大きい人ですから。体も馬鹿デカいけど、人間の器がとにかくデカい。自分らみたいな、他人の言うことを聞けないはみ出し者を優しく包み込んでくれてね。
――どういうところで器の大きさを感じました?
黒石 例えば初期の頃は、自分が試合で負けると仲間がリングになだれ込むことがよくあったんですよ。もう暴動みたいになっちゃって…。そんなの主催者側からしたらクソ迷惑じゃないですか。会場が借りられなくなるかもしれないですし。だけど前田さんは言うんです。「おまえのことを本気で思ってくれる仲間がいるんだな」って。試合開始前に自分が勢い余って相手を殴っちゃったときも「おまえは悪くない。気持ちが先行しちゃったな」って慰めてくれて。これが学校の教師だったら、一発レッドカードですよ。でも前田さんは「おまえのその気持ちは大事にしろ。挫折せず、もうちょい頑張ってみい」って。本当に涙がこぼれましたね。それまで自分が出会ってきた大人とは、まったく違うと思いました。
――仕事をするうえで、肝に銘じていることはなんでしょうか?
黒石 頑張っている自分に酔わない! 人間、誰しも頑張っているに決まっているじゃないですか。自分が頑張っていることに満足しちゃうと、もうそれ以上には行けないですからね。格闘技を始めたばかりの頃に、「職人の仕事が忙しいから、ちょっとジムに行けません」って言ったことがあったんです。そうしたら「だからおまえは弱いんだよ!」って怒られましたね。「できない言い訳を大声で話しているんじゃねぇ!」って。その言葉は、めっちゃ心に響きました。
――どうしても弱いほうに流されがちですからね。
黒石 そう。だから自分の脳をだますんです。これは努力じゃないんだって。毎日、当たり前のこととして淡々とこなしていく。毎朝、歯を磨くのと同じです。人生は長期戦のマラソンだから、日々の積み重ねが大事だと思うんですよね。
求められたらなんでもやる
――一般的なイメージと違い、黒石さんって基本的な考え方が真面目ですよね。黒石 真面目? どんなジャンルの仕事をしていても、不真面目な奴はダメだと思いますよ。極端な話、ヤクザだって上に立つ人間は真面目じゃないと務まらないと思う。別に彼らの肩を持つ気は一切ないけど、どうしようもない街のチンピラとの違いは、結局そのへんじゃないですかね。
――俳優になって12年。自信もつきましたか?
黒石 難しいですよ、役者って本当に。それでも「自分の強みは何だろう?」って冷静に考えてみると、やっぱり血の匂いがする演技だと思うんですよね。もともとが不良上がりなので、そこは避けられないし、自分の武器だと受け止めるようになりました。
――今後の目標は何かありますか?
黒石 NHKの大河ドラマでレギュラーを張れるようになりたいですね。なぜかというと、NHKってお年寄りも含めて本当にいろんな人たちが見ているから。自分のおじいちゃん、おばあちゃんはもう死んじゃったけど、俺がNHKに出たときは周囲に自慢しまくっていたらしいです。あと、昔の悪かった時代の仲間が塀の中で『とと姉ちゃん』に出ている自分を見て、「俺も頑張らなきゃ」って誓ったらしいんですよ。懲役中でもNHKの朝ドラは見ることができますから。そのことは知り合い経由で聞きました。もう違う道に進んでいるから、懲役中のそいつとは会うことはないかもしれないけど、そうやって人に影響を与える存在になれたことが、率直にうれしかったんですよね。
――最近は『BreakingDown』にも出場して、支持層を広げていますよね。
黒石 反響は大きかったですよ。SNSの数字も伸びたし、バラエティー番組からもオファーが来ました。本来は若者にチャンスを与える場なのに、自分みたいなオッサンが注目されて恐縮です(苦笑)。でも、求められたらなんでもやるというのが、自分の基本姿勢ですから。これからも躊躇することなく、チャレンジしていきたいです。押忍!
(取材・構成/小野田衛 撮影/柴田歩夢)
くろいし・たかひろ 1986年9月8日、神奈川県横浜市出身。2008年、地下格闘技大会『THE OUTSIDER』に出場。「濱の狂犬」として、パンチパーマと男くさい言動で人気を博す。その後もモデルとして悪羅悪羅系ファッションをリードするなどマルチに活躍。本業の俳優としては映画『アウトレイジ ビヨンド』『孤狼の血』などアウトロー系作品に数多く出演。その一方、近年は子供向け特撮番組に出演するなどフィールドを広げている。『THE OUTSIDER』以降は格闘技から離れていたものの、格闘家の朝倉未来が主催する『BreakingDown』に出演して喝采を浴びた。
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