インタビュー「次長課長」河本準一〜“紆余曲折”芸人人生にも節目節目に大物芸人の影〜
「お前に食わせるタンメンはねぇ」のギャグで知られ、テレビやラジオ、舞台や映画、近年はユーチューバーとしても活躍するお笑いコンビ「次長課長」の河本準一さん。ここに至るまでにはさまざまな紆余曲折があったが、その陰には多くの大物芸能人たちの支えがあったという。
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――1月11・18日に『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「身代わり数珠つなぎカラオケ」に出演し話題となりました。千葉県茂原市のカラオケボックスに閉じ込められた芸人が、電話で呼び出した別の芸人にカラオケを歌ってもらい、その得点が自分より高得点なら脱出できるという内容で。
河本準一(以下、河本)「僕は『水玉れっぷう隊』のケンさんに呼び出されました」
――東京からタクシー代約4万円かけて向かいましたよね。さらに、その裏話を明石家さんまさんが1月21日放送『ヤングタウン土曜日』(MBSラジオ)で明かしていました。
河本「あの人、すぐしゃべるんですよ。ケンさんから電話が来たときは新幹線でさんまさんと隣同士で。『女性が大勢いるパーティーに来てほしいと、怪しい内容なんです』と話すと、『ドッキリでもなんでもいいから行っておいで。俺も行こうかな』と言うんです」
――さんまさんも同行する可能性があったんですね!
河本「さすがにそれはドッキリだった場合に放送できないだろうしと、僕1人で行くことを決めると『これ持って行け』と、すごく勃ちのいい薬をもらいました」
――そんな薬を!? さんまさん、ラジオではそこまで話していなかったですよね(笑)。
河本「ここぞというときに仙豆を飲みなさい、と」
――準備万端だったんですね。さんまさんとは現在、さまざまな番組で共演する他、座長公演『笑輪の笑い』にも出演されるなど親交が深いですよね。そんな現在に至るまで波乱の芸人生活があったかと思いますが、コンビ結成は1995年。NSC大阪校13期生で、同期に『野性爆弾』さんがいらっしゃいますよね。
河本「野性爆弾は華があって最初から売れる匂いがして『面白すぎる』と評判で、他のクラスの人も見にくるほどでした」
――次長課長はどんな存在でしたか?
河本「講師には一度も褒められたことがないし、岡山から出てきた僕らにとって、『関西人はこんなにナチュラルに漫才をするのか』という事実がカルチャーショックで。『俺たちが関西で漫才をやるのはムリやな』と。でも、『ケツ巻いて岡山に逃げてたまるか!』という根性で保っていました」
――今でこそ漫才は多様ですが、当時はまだ関西の専売特許的な空気があったんですね。NSC卒業後は大阪が主戦場かと思いますが、いかがでしたか。
河本「テレビのオーディションは受けても受けても落ちる。劇場に出ればアンケートに『岡山弁が聞き取れない』『関西弁しゃべれや』というアンケートしか来ない。ネタの良し悪しではなく、関西弁ではないことへの苦言でした。それで僕らは1年間ネタをするのをやめて、同期の奴らに関西弁を教わることにしたんです。かなり悔しかったけど、岡山弁を捨てたんです」
明石家さんまの恐ろしい前説
――言語に苦労があったと。河本「教えてくれたやつらの出身地は、大阪に兵庫に京都、滋賀…とバラバラでしたが、僕らは全部同じように聞こえるし、めっちゃ勉強して。関西のテレビ番組に出られるまでにすごく時間がかかりました」
――それから劇場で活躍しましたが、2002年、突然、東京進出を決めました。
河本「大阪で9年ほど経ち、なんとなく仕事がもらえていた時期で、ぬるま湯に浸かっているような感覚だったんです。僕らはゴールを大阪に定めて岡山から出てきたわけではないし、全国区のスターと早く絡みたかった。とはいえ当時は〝賞を獲ったら東京進出〟という流れがあり、僕らは実績もない。だから事務所に、『大阪の仕事をすべて辞めて東京に行きます』と話したとき『はあ? 何事?』という反応をされましたね」
――では東京ではゼロからのスタートに?
河本「はい、最初は劇場の出演が月2回ほどと前説などで、ギャラは合計して月2万円ないくらい」
――バイトもしたり。
河本「はい。結婚して子供も生まれたばかりでしたし。急にライブのゲストに呼ばれることもあるので、『ルミネtheよしもと』がある新宿近辺で探すと、後輩が歌舞伎町の風俗案内所を紹介してくれました。シフトの融通が利くからと、芸人御用達のバイトだったんです」
――お客さんに顔バレしませんでしたか?
河本「関西から出張で来るお客さんには『あ! 次長課長や!』と気付かれるんです。それを後輩に見られるのがすごくイヤでしたね。それに、子供を風俗街の託児所に預けていたんですが、夜中に仕事が終わって子供を背負って歓楽街を歩いているところも後輩に見られて。彼らには『大阪でテレビに出ていた人が、ここまでしても売れへんのか』と絶望感もあったと思います。でも僕は『今に見とれよ、売れたるから』と、根拠もなく振る舞っていました」
――それが見事、現実になったのが05年ごろでしょうか。ブレークのきっかけは覚えていますか?
河本「何かの大会で優勝もなければネタ番組にも出ていないですし、それ以前から『さんまのSUPERからくりTV』(TBS系)と『クイズ! ヘキサゴン』(フジテレビ系)の前説をやっていて、さんまさんと(島田)紳助さんの番組でやらせてもらえたのは大きかったかもしれません。そこでずっとマニアックなモノマネばかりやっていて、気付いたらいろいろな番組に呼ばれていました」
――さんまさんは前説に反応するんですか?
河本「あれは恐ろしい現場でした。250人のお客さんの前で40分間しゃべって笑いを取らないとさんまさんたちが一向に出てきてくれない。『現場を温めるのが前説の仕事やろ』と。徐々に笑いが取れるようになると、あるとき、さんまさんから『前説が終わったら袖から番組を見とけ』と言われ、スタジオから僕らのことをイジッてくれたり、マニアックなモノマネを取り上げてくれるようになって」
「すべらない話」誕生の瞬間
――そこから今に至る親交が始まったんですね。河本「東京進出して3年目、29歳のとき、さんまさんに『30歳になっても売れなければ、辞めようと思っています』と言ったこともありました」
――さんまさんの反応は?
河本「『あ、ほんまか』と。でもその後、30歳になるとTBSの新しいネタ番組に出演することになり『からくり』にもゲストで呼ばれ、徐々に仕事をいただくようになり『あれ!?』みたいな」
――もしかして、さんまさんのプッシュが?
河本「分かりません。もしそうだとしても、あの人は一生言わないでしょうね」
――04年12月28日放送の『人志松本のすべらない話』(フジ系)第1弾でも「姉がレズ」の話で爪痕を残していますが…。
河本「実は僕、番組誕生の現場に居合わせたんです。木村祐一さんに連れられた飲み会に、松本さんとフジテレビのプロデューサー、千原ジュニアさんや宮川大輔さんもいて。みんなが面白い話をする中で、松本さんがポロッと『何回も聞いてるけど、おもろい話は絶対すべらんやろ』とつぶやいて。そのフレーズがあんなふうに番組になるなんて」
――すごい現場に! ブレーク後は女性エピソードも豊富だったかと思います。
河本「あの時期はすごかったですよ。僕と『フットボールアワー』の岩尾(望)と2対2でコンパしましたもん。アイドルからのご指名で」
――すごいメンバー!(笑)
河本「この2人が代表戦に選ばれるなんてあり得ないですよ。週刊誌に載るたびにガッツポーズしていました。売れると踏んでくれたから掲載してくれたんだろうなと」
――奥様はなんと?
河本「常に大激怒で、けっこう顔面を踏まれましたね。これは僕の持論ですが、芸人は全部ネタとしてカウントしているんです。逆に、先輩の女ネタを暴露してイジるときは、100%すべらない確証があるときしか話しません」
――ここ数年で、そういった女性ネタが一気にNGになったように思います。
河本「芸人はそれを『あ、ウケないんだな』と嗅覚で敏感に察知しているので、今はテレビではそういう話を聞かないですよね」
――12年に河本さんの生活保護費不正受給問題が報じられた件も、長く尾を引いた印象があります。
河本「あの記者会見をしたときのことは、今思い出しても震えます。何を言っても言い訳になると思ったし、分からないことを『分からない』と言い誠実に謝るしかなかった。同時に『母親をこんなふうにさらしてしまった』という悔し涙も出てきました。それからは街中で突然『あ、生活保護のあいつや、殺そう』と何度も言われましたね」
――そんなことが長く続き、よくご自身を保ちましたね。
河本「後輩たちが僕を1人にしないようにと、支えてくれたのが大きいですね」
――何年も前から、後輩たちと岡山の福祉施設でボランティアを行っているという話も聞きましたが。
河本「〝岡山県に貢献する〟というつもりでやっていて、世間にアピールするためではないので、僕から話すことはないんです。あ、伝えたいのは、19年から農業を始めて大分県の『朝来米(あさくまい)』を普及中です! このお米の素晴らしさは知ってほしいので、これはぜひ書いてくださいね」
――もちろんです!
(文/有山千春 企画・撮影/丸山剛史)
河本さんが作ったお米が買えるサイトはこちら
河本準一(こうもと・じゅんいち) 1975年、岡山県育ち。NSC13期生で、当初は『次長課長社長』だったが、社長が脱退し『次長課長』に。2002年に東京に進出するも仕事はほとんどなかったが、明石家さんまや『ダウンタウン』松本人志との出会いをきっかけに、人気タレントの仲間入りを果たす。現在は頻繁にボランティア活動を行うなど、社会貢献にも力を入れている。
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