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コロナ対策はバイデンに学べ!~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

アメリカのバイデン大統領が1兆9000億ドル(約200兆円)の経済対策を発表した。規模の大きさもさることながらその中身を見ると、日本のコロナ対策の問題点が浮かび上がってくる。

まずは、最低賃金の引き上げだ。バイデン大統領は、連邦最低賃金の時給を15ドル(約1560円)に倍増させるという。日本の最低賃金は902円だから73%も高い。日本は昨年7月、中央最低賃金審議会が「現行水準の維持が適当」として引き上げを求めなかった。

コロナ禍で苦しむ企業への配慮だが、時給902円では、平均年間労働時間の1700時間を働いても、年収は153万円にしかならない。最低賃金がアメリカ並みになれば、年収が265万円になるから、非正社員でもなんとか生活はできるのだ。

バイデン大統領の第2の対策は、国民1人あたり1400ドルの現金給付だ。すでに600ドルの給付は決まっているから、総額は2000ドル(約20万8000円)となる。日本は昨年1人あたり10万円の特別定額給付金を支給したが、追加給付の話はまったく出てこない。

昨年、10万円給付を主導した公明党の山口那津男代表でさえ、追加給付には否定的だ。菅義偉総理が官邸から経産官僚を更迭して財務省が復権したため、大型の財政出動が困難になっているのだ。これでは、生活の下支えができないし、消費の失速につながる可能性も高まる。

バイデン大統領の第3の対策は、PCR検査の拡充だ。検査の充実に500億ドルを充てるという。これは、ワクチン接種の200億ドルをはるかに上回る規模だ。私は、現時点で最も効率的かつ効果的なコロナ対策は、検査の拡充だと思う。

日本のPCR検査数は221カ国中147位

例えば、政府は緊急事態宣言のもとで、対象となる11都府県の飲食店に午後8時以降の営業自粛を求め、協力店に1日6万円を支払うことを決めた。緊急事態宣言が1カ月続くとすると、対象都府県の飲食店数は33万6985軒なので、必要な予算は6066億円となる。さらに、飲食店に食材を納入している企業への40万円の給付や事務費もあるから、予算総額は1兆円を超えるだろう。

一方、11都府県の住民全員にPCR検査をしたら、いくらかかるのか。11都府県の人口は、6970万人だから、単価を2000円とすると、必要な予算は1394億円となる。ケタ違いにコストが低いのだ。

飲食店に午後8時以降の営業自粛を求めるのと、住民全員のPCR検査を行い、陽性者に自宅待機を求めるのと、どちらが効果的かと言えば、私は圧倒的に後者だと思う。PCR検査の感度は唾液検査でも9割に達する。もちろん完全ではないが、2回検査すれば99%の感染者をあぶり出すことができる。2回検査を行っても、必要な予算は3000億円に満たないのだ。

そもそも日本のPCR検査は、とてつもなく少ない。『ワールドメーター』という世界統計サイトによると、日本の人口あたりの検査数は、対象221カ国中147位で、アメリカの19分の1しかない。これまで野党は、さんざん検査の拡充を訴えてきたが、政府はまったく聞く耳を持っていないのだ。

その結果は経済に現れる。日本よりずっと感染が深刻な米国は、7~9月期のGDP前年比が▲2.9%なのに、日本は▲5.7%だ。このままでは、その差が開く一方になるだろう。

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