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岸田政権“電撃ウクライナ訪問”で追い風も「統一地方・衆参補欠選挙」結果次第では…

岸田文雄
岸田文雄 (C)週刊実話Web

岸田文雄首相がウクライナへの電撃訪問を実現させ、政権に追い風が吹き始めた。だが、この先にはいくつもの重大課題が待ち受ける。4年に一度の統一地方選挙もスタートし、衆参5補欠選挙と合わせて、その結果が岸田政権の行方に影響を与えるのは必至だ!


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「先進7カ国(G7)の議長国として、何が何でも行かなければならない」

岸田文雄首相は周囲に何度もそう話した。

まさに電撃訪問だった。3月21日、訪れていたインドから、急きょウクライナの首都キーウに入り、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行ったのだ。

首相はこれまでも訪問の機会をうかがっていたが、実現しなかった。最初は昨年6月、G7首脳会議(サミット)のためドイツを訪れたときだ。同国からポーランド経由でのウクライナ行きを検討したが、翌月の参院選を含めて政治日程が重なり断念した。

その後も昨年12月や今年1月にも可能性を探ったものの、現地での戦闘激化で警備当局が強く反対し、結局は見送られた。

転機となったのは2月20日のバイデン米大統領によるキーウ訪問だ。直後にイタリア首相もキーウを訪れ、G7首脳でウクライナに入っていないのは岸田首相だけになった。5月に広島でG7サミットを主催するだけに、ウクライナ訪問は実現が「絶対条件になった」(政府関係者)のだ。

首相は直ちに、前外務事務次官の秋葉剛男国家安全保障局長にオペレーションの検討を指示。秋葉氏は外務省に具体案をまとめさせた。

前出の政府関係者によると3つの訪問案があったという。A案は、3月18日に訪日したドイツのショルツ首相の帰国時に同乗するもの。B案は2023年度予算成立後の3月末に、日本から直接ポーランドを経由して行くもの。C案はインド訪問の後、ポーランドを経由して行くものだ。

A案は岸田首相のインド訪問日程との調整がつかずに消えた。B案は情報漏えいが懸念された。C案に決まったのは3月上旬だった。

まず、インドからポーランドまでの移動用として、首相が乗るチャーター機を押さえるとともに、トルコ地震支援の名目で航空自衛隊の『KC-767』空中給油・輸送機をトルコ、パキスタン方面に派遣した。

さらに、海外訪問の際、国会開会中に必要な事前承認を不要とするよう与野党に根回しをした。

極め付きは、月刊の情報誌に流した「偽情報」だ。わざわざB案に決まったかのようにリークし、情報を攪乱したのだ。

「警備当局はそれでも反対したが、最後は『絶対に行く』という首相の強い意思が決め手となった。インドでの首脳会談後に、同行した記者のぶら下がりインタビューを終えて、ホテルを抜け出した。記者は誰も気付かなかった」

“霞が関ライン”を一層重視

前出の政府関係者は、オペレーションの裏側を明かした。

「ウクライナ訪問が追い風になっているように、ここにきて岸田政権は持ち直しつつあるようだ。それは内閣の支持率にも如実に表れている。」

昨年来の旧統一教会の問題や閣僚の連続辞任などで、報道各社の世論調査の数字は低迷を続けていたが、軒並み40%前後に上昇。朝日新聞による3月中旬の調査も5ポイント上がり、40%台に乗った。首相は周囲に「まだ上がるぞ」と語り、喜色満面だったという。

首相が会長を務める自民党の岸田派幹部は、「新型コロナウイルス感染がようやく収束に向かい、大幅な賃上げも実現できそうだ。日韓正常化も好感されている。打つ手打つ手が当たっている」と話す。

ここ数カ月の間で、首相は国家安全保障戦略における反撃能力の保有や防衛費の大幅増など、大きな政策決定に次々と踏み切ってきた。「日銀の正副総裁人事もうまくいき、自信を深めている」(同)という。

曲がりなりにも政権内の歯車が、かみ合い始めた背景は何なのか。ある自民党関係者は「主流派態勢の見直し」を指摘する。茂木敏充幹事長の代わりに森山裕選対委員長を取り込み、政権運営の軸を「岸田・麻生太郎副総裁・森山ライン」にシフトさせたのだ。

自民党関係者が続ける。

「茂木氏は党運営や政策発信で独走が目立ち、『ポスト岸田』への意欲も隠さないため、首相は不信感と警戒心を強めていた。一方で森山氏は実直で信頼が置ける。首相と距離のある菅義偉前首相や二階俊博元幹事長に目配せもできる」

秋に党役員人事が想定されるが、森山氏は早くも茂木氏の後任幹事長候補に挙がっているという。

官邸の態勢にも変化が見られる。これまで首相は、岸田派側近の木原誠二官房副長官を重用してきた。だが、木原氏は政策面で党や国会に十分な根回しをしないまま先走るきらいがあり、無用な軋轢を生んできた。

そこで首相は「安全保障や外交など最重要案件から木原氏を外すことにした」(前出・政府関係者)という。代わりに元経済産業事務次官の嶋田隆首相政務秘書官、前述の秋葉氏、財務省出身の藤井健志内閣官房副長官補の「霞が関ライン」を一層重視するようになった。

党と官邸が態勢を組み直し、「党運営や政策の発信が徐々に安定してきた」(同)というわけだ。

こうなると衆院解散の時期はいつになるのかが、永田町の関心事となる。5月の広島サミットを成功裏に終えれば、首相は今年の夏から秋にかけて解散に踏み切るのではないかとの観測もくすぶるが、前出の岸田派幹部はもう少し慎重な見方をする。

「首相は、周囲に『俺はやらなければならないことがある』『G7の議長国として責任がある』と話している。一つ一つ実績を積み重ねていこうと考えているのではないか」

確かに、この先も重要課題は山積している。首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」や「新しい資本主義」を進めなければならず、コロナで疲弊した経済の回復は喫緊の課題だ。

「議長国の責任」は本心なのだろう。今後、ウクライナでの戦闘激化が予想され、ロシアが限定的な核使用に踏み切る可能性は否定できない状況だ。また米国の利上げは続いており、米欧の金融不安が危機に転じる恐れもある。

「首相は本気で『国際社会のために二つの危機に備えねばならない』と考えている」(同)

派内には「解散はまだ先だろう。今年秋から来年7月ごろまでの間で時機を探るのではないか」という見方が広がっている。

出馬なら茂木派は分裂含み

だが、「一寸先は闇」が政治の常であるように、いくら岸田政権が回復基調にあるとはいえ、いつ失速しないとも限らない。解散を先送りしたことでカードを切り損ね、退陣に追い込まれた首相は何人もいる。

不安要素はいくつもある。一つは内閣支持率だ。数字を戻していると言っても、まだ40%台。しかも、不支持率が高止まりしているのは「首相が嫌われている証拠」(前出・自民党関係者)でもある。

政権基盤を固めてきたこともあるが、明確な「ポスト岸田」が不在のために、結果として安定して見えている側面は大きい。

茂木氏は支持が広がらず、出馬を強行すれば茂木派は分裂含みになる可能性が高い。河野太郎デジタル相も、党内の支持は限定的で、後見人的存在である菅前首相には体調不安説もあり、求心力が落ちているとみる向きは多い。

だが、まさに菅氏の後を岸田首相が襲ったように、政権が逆風にさらされ、いったん政局になれば流れを止めるのは困難だ。続々と後継候補が出てきたのが自民党の歴史だった。

「森山氏を取り込んだのも、来年9月の党総裁選で再選するためだ。しかし、その前に政局になれば、菅氏と同じ末路になりかねない」(同)

さらには、首相を待ち受ける重要課題には、党内対立の火種になるものが少なくない。LGBT理解増進法案の扱いや「次元の異なる少子化対策」の財政的措置がそれだが、中でも今後、最大の焦点になりそうなのは防衛財源の確保策だ。

岸田政権は防衛費として、今後5年で計43兆円を投入する方針を決めている。だが、財源をどうするかが定まっていない。

そのため、今夏から自民党内で議論を本格化させるが、昨年から法人税や所得税などの増税を軸にするか、一部は「防衛国債」の発行で手当てするかで意見が割れていた。

党内では安倍派を中心に、安倍政権以来の積極財政路線を支持する議員が、防衛国債での財源措置を強く主張。一方で財政再建派の議員は、財政規律の観点から増税でまかなうべきだと主張する。

首相は防衛国債について、周囲に「戦時国債と同じで、そんなものはあり得ない」と語るなど否定的だ。

だが、世論調査では「増税反対」が多数だ。首相が一方的に財政再建派に肩入れすれば、党内は二分され「政権基盤が一気に流動化する」(安倍派中堅)可能性が高まる。

候補選定をめぐる不協和音

そして現在の局面で最も重要なのは3月23日に9知事選告示で始まった統一地方選挙(4月9日・23日投開票)と、衆参5つの補欠選挙(参院は4月6日告示、衆院は4月11日告示、23日投開票)だ。特に5補選の結果は政権の帰趨に絡んでくると言っていい。

補選は、衆院の千葉5区と和歌山1区、山口2、4区、参院大分選挙区の5つ。岸田首相は3月14日、自民党本部で森山氏から情勢報告を聞き、「俺は選挙に強い。5戦全勝もいける」と意気込んだという。

だが、実際は「2勝3敗の負け越しもあり得る。森山氏もそう説明したはず」(党選対関係者)という。

引退した岸信夫前防衛相の山口2区と、昨年、凶弾に倒れた安倍晋三元首相の同4区は、多くが自民党の勝利を予想する。

だが、基礎票では圧倒的に有利なはずの和歌山1区は「予想以上に日本維新の会の女性新人候補が支持を広げている」(同)という。

薗浦健太郎元首相補佐官の議員辞職に伴う千葉5区補選には、立憲民主党をはじめ野党4党がそれぞれ候補を立ててきたため、自民党の新人女性候補が有利とみられている。

だが、候補選定をめぐっては、地元の石井準一参院議員が自身に近い経済人を推そうとしたところ、麻生氏が岸田首相(総裁)に直談判してトップダウンで女性候補擁立に道筋を付けるなど、曲折があった。

前出の選対関係者は「薗浦元補佐官に復帰の芽を残すべく、いずれは選挙区を明け渡してもらうため」と明かす。当然のことながら「石井氏は怒りが収まらず、党県連は『お手並み拝見』で動かない」という。

参院大分選挙区はもともと野党系の議席であり、立憲民主党の吉田忠智参院議員が比例代表からの「くら替え」を決めたことで、現時点では比較的優位に選挙戦を進めるだろうと予想されている。

もちろん千葉、和歌山、大分のいずれも、最後は自民党が地力を発揮する展開もある。だが、わずか2勝にとどまれば、政権を取り巻く空気は変わり、首相の解散戦略に影響を与えることにもなりかねない。

そのとき、岸田首相はどう出るだろうか。今後の政局が注目される。

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