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『性産業“裏”偉人伝』第2回/ピンクコンパニオン派遣業~ノンフィクションライター・八木澤高明

Kobby Dagan
(画像)Kobby Dagan/Shutterstock

第2回/ピンクコンパニオン派遣業(村田・50歳・都内在住)

「昨年は、過去最高の売り上げを記録したんですよ」

人懐っこい表情でそう話すのは、都内某所でピンクコンパニオンの派遣会社を経営する村田(50)である。昼下がりのファミリーレストランで、私は彼から話を聞いていた。

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まずピンクコンパニオンについて説明すると、温泉地のホテルなどで接客するコンパニオンには、大きく分けて二つのタイプが存在する。

一つが通常のコンパニオンで、こちらは接客はするものの、服は脱がない。もう一つがピンクコンパニオンで、こちらは服を脱いで接客し、さらに客とのやりとりにより、さまざまなサービスを提供するのである。

後者のお色気たっぷりのコンパニオンを派遣しているのが、村田が経営する会社である。

コンパニオンの派遣会社であるならば、有名な温泉地などから近い場所にあるという印象だが、村田の会社があるのは東京だ。温泉地からも遠く、あまり需要はなさそうだが、やっていけるのだろうか。

それでも会社は観光業界が大打撃を受けた新型コロナウイルスの感染拡大を乗り越え、業績は好調だという。村田は善良そうな顔をして、大ホラ吹きか、遣り手の経営者なのか、じっくりと話を聞きたいと思った。

まずは、最高益を上げる前、コロナ禍での打撃について、話を向けた。

「つらかったですよ。かなりひどい状況でした。最悪だったのは2020年4月でしたね。予約が一つだけで、堪えました」

そのコロナ禍に、彼なりの気づきがあったという。

「人間の欲望というのは、そう簡単に消えないものだというのもよく分かりました。緊急事態宣言が出ているときは予約が入らないんですが、解除された途端、ドッと予約が入るんです。いつまでもコロナが続くわけではない、いつか良くなると思っていましたけどね」

コロナの流行が落ち着くと、村田の思惑通り、客は戻ってきた。人間の欲望は消えていなかったのだ。

また、地方ではなく東京に事務所を構えている理由、どんな客をターゲットとしているのかを聞いた。

「この業界は、全国でも30社ぐらいしかないんです。その中でも一つの会社が8割近く独占しています。私の会社は、温泉地のホテルや旅館などとコネクションを持たないので、待っていてはお客さんが来ません」

温泉旅館の客から予約が入っても、旅館側は、村田の会社とは業務提携しているわけではない。そのため、ほぼ100%断られるという。

ハコモノはすでに斜陽産業

そんなとき、村田は予約を入れてきた客に、「ホテルとは何も交渉しないでくれ」と伝えるという。そして村田が何をするかというと、ホテルの非常階段など、従業員の目につかない場所からコンパニオンを勝手に送り込むのだ。

ただ、いつも下手をしたら訴えられるような、荒っぽいことをメインにして営業するわけではない。本筋の客は、居酒屋の別室で宴会をする少人数のグループ、別荘でのパーティー、時には公民館を利用する消防団の宴会など、温泉などの観光地に縛られず、日常生活の範囲にある飲み会などをターゲットとしているのだ。

「関東近郊でも、温泉地から離れていて、コンパニオンを呼べない地域というのが、結構あるんです。企業秘密なので詳しくは言えませんが、そんな地域に暮らす人たちにも、フットワーク軽く、どこでも派遣するというのが私のモットーです。ウチのような小さな会社が生き残っていくには、それしかないですね」

何よりも重要なのは、「ネットなどでの宣伝である」と村田は言う。

「まずは自分たちの存在を知ってもらわないと話にならないですからね。ネットでの宣伝には力を入れていますよ」

その結果、したたかにコロナを乗り越え、昨年には最高の売り上げを記録することができたのだった。

このように村田の会社は順調に利益を上げているが、この業界の先は暗いと語る。

「キャバクラとかのハコモノは、すでに斜陽産業だと思います。その理由は、女の子たちが『ギャラ飲み』だとか個人で稼ぐ時代になっているからです。コンパニオンも全く同じですよ。先はありません。女の子たちが直接取引する時代がきます」

ただ、村田は手をこまねいているわけではない。

「今は公民館だとか居酒屋だとか〝隙間〟でなんとか稼いでいる状態ですが、自ら旅行代理店を立ち上げるなど、温泉地とも関係を築きながらやっていくことを考えています」

将来を見据えながらも、どこか運命に任せているとも言った。

「人生って、いくらあがいても、なるようにしかならないんです。今、私がこの仕事をしているのは、偶然でも何でもなく、必然だと思っています。これから先の人生も、必然しかないですね」

なぜそのような境地に至ったのか、気にかかった。村田の生い立ちに何か隠されているのかと思い、尋ねてみた。すると、大学教授だったという父親が小学校1年生のときに、突然自殺したと明かした。

自分ではコントロールしようがない経験をしたことが、村田をそんな境地に誘うのだろうか。そして、インテリ一家に生まれながら、ピンクコンパニオンを各地に送り込む姿を、誰が想像できただろうか…。

ただ、それは村田からすると、必然の道だったのである。これからも泰然とこの道を生きていくのだろう。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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