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「国民負担率」上昇は誰の責任か~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

2月21日、財務省が「国民負担率」を発表した。国民負担率というのは、国民所得に占める租税と社会保障負担の割合だ。国全体で、国民や企業が稼いだお金の何%が税金や社会保険料で持っていかれるのかを示しており、今年度(2022年度)の見込みは47.5%と、ほぼ5割が税金や社会保険料に取られることになっている。この報道を受けてネットの世界では、「五公五民」や「百姓一揆」という言葉がトレンド入りした。江戸中期に年貢米の割合が4割から5割に引き上げられたことで、日本中で一揆が頻発した歴史になぞらえたものだ。


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実業家のひろゆき氏は、2月24日に〈60歳以上の人達は、稼いだ額の8割を自分のお金として使えて、国立大学の学費も月2万円とかの時代。今の若者たちは稼いだ額の半分しか使えなくて、大学の学費は月10万円。この差を知らずに高齢者が『若者たちは元気がない』とか『若者の車離れ』とか言ってる状況〉とツイートした。まるで高齢者が、若者から搾取していると言わんばかりのツイートだ。しかし国民負担率の上昇は、本当に高齢者の責任なのか。

国民負担率は2010年の37.2%から22年の47.5%へと、12年で10.3%も上がっている。そのうち租税負担が7.2ポイント、社会保障負担が3.0ポイント上がっている。つまり、国民負担増の大部分は税負担が上昇したことの結果なのだ。なぜ租税負担が上昇したのか。最大の理由は、2014年と19年の2回にわたって消費税率が引き上げられ、5%から10%に倍増したことにある。

選挙に行かない若者にも責任がある

それでは、この消費税率の引き上げは、本当に必要なものだったのか。財務省の『国の財務書類』によると、2010年度の連結ベースの国の純債務は402兆円だった。そこから通貨発行益(日本銀行の国債保有)を差し引くと、国は325兆円の債務超過となっていた。

しかし、20年度の債務超過はわずか8兆円と、ほとんど債務超過がなくなっている。つまり、消費税の倍増によって得られた税収増は、その多くが猛烈なスピードで進められた国の債務圧縮に向けられたのであり、高齢者の社会保障を拡大したからではないのだ。

私は、国の債務超過が爆発的に拡大していくのが望ましいとは考えていないが、無理に減らしていく必要はないと考えている。もし、2010年度の債務超過を同額で放置する決断をしていれば、消費税率の引き上げは必要なかったことになる。当然、そうなれば国民負担率も、ほとんど上がらなかったはずだ。私は、国民負担率が上昇した最大の理由は、国民が財政の仕組みを勉強しようとせず、財務省の唱える財政破綻論にまんまと騙されて、増税を容認したことだと思う。その責任は、若者にもある。

「自分は増税を容認などしていない」と若者は思うかもしれない。だが、選挙のたびに消費税増税を進めてきた自民党や公明党、立憲民主党を支持した人たちは、実質的に増税を容認したことになる。消費税減税を主張した政党は、当時、いくつも存在していたからだ。

さらに若者の責任が重いのは、選挙に行かなかった割合が高いということだ。「自分たちは5割も持っていかれる」という怒りを向けるべき先は、高齢者ではなく、これまで必要のない増税を繰り返してきた財務省であることに早く気付くべきだろう。

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