エンタメ

“所得税と社会保険料”それぞれの課税方式の見直しを~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

与野党の一部が提言する所得税の「N分のN乗方式」を導入した場合、税収が4兆円から5兆円近く減少すると財務省が試算していることが分かった。減収分は、消費税2%弱に相当するとしている。鈴木俊一財務大臣は、これまでも「納税者の6割に最低税率の5%が適用されていて、メリットが小さい」とか、「高額所得者や片稼ぎ世帯の大幅な減税につながる」と、導入に否定的なコメントを繰り返してきた。

【関連】日本銀行次期総裁内定で経済の変化は~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 ほか

しかし、N分のN乗方式は、家族1人当たりの平均所得が同じなら同じ税率を課す方式であり、それを導入することで4兆円の減税になるということは、いまの税制上で最も有利な「共稼ぎで子供のいない世帯」に、巨額の補助金を与えてきたことを意味する。その税制が有効だからこそ、日本では共稼ぎ世帯の比率が高まり続け、同時に少子化も進んでいるのだ。

私はN分のN乗課税を導入するとともに、社会保険料についても、2分の2乗方式を導入すべきだと思っている。それが労働市場の歪みをなくす特効薬になるからだ。社会保険料の2分の2乗方式とは、夫婦の平均収入に基づき、夫婦それぞれに健康保険や厚生年金などの社会保険料を適用することで、例えば年収800万円の夫と専業主婦の場合、夫婦それぞれが400万円の年収と見なして、社会保険料を課すことになる。

この方式の最大のメリットは「130万円の壁」がなくなることだ。いまの社会保険制度では年収が130万円を超えると、パートタイマーでも社会保険料を支払わなければならないため、年収130万円までで働くことをやめてしまう人が多い。しかし、2分の2乗方式にすれば、ほとんどの人が社会保険料を払うことになるから、壁が消えてなくなるのだ。

社会保険料の収入が増える

また、専業主婦やパート主婦の年金が、大幅に拡充する効果も大きい。現在の制度では、彼女たちは「第3号被保険者」という扱いになり、老後は国民年金しかもらえない。しかし、2分の2乗方式にすれば、老後は夫婦で同額の厚生年金がもらえるようになる。

例えば離婚をした場合、婚姻期間に形成された資産は、離婚時に夫婦で折半する決まりになっている。年金も同じだと考えるべきだ。結婚している間は、夫婦の共同作業で仕事と家庭を支えているのだから、そこで支払った保険料は、老後に半分ずつ受け取るというのが筋なのだ。

もしN分のN乗課税と社会保険の2分の2乗方式を同時に導入すれば、金持ち優遇との批判を避けることもできる。社会保険制度における最大の金持ち優遇は、標準報酬月額の上限設定だ。現行制度では、厚生年金の場合は月給65万円、健康保険の場合は月給139万円を超えると、超過分には一切保険料がかからない仕組みになっている。社会保険料に2分の2乗方式を導入すれば、この負担上限を変えなくても、ほとんどの被保険者が上限以下に収まるようになるため、社会保険料収入が増えて、N分のN乗課税導入に伴う減収のかなりの部分を相殺することができるのだ。

しかし、この制度の導入には、財界が猛反発するだろう。それは130万円の壁がなくなると、正社員の半分のコストで使えたパートタイマーなど非正社員の労働力供給が大幅に減ってしまうからだ。しかし、非正社員の需給がひっ迫すれば賃金が上がる。まさに良いことだらけになるのだ。

あわせて読みたい